凌辱姫-1
むかしむかし、世界の果てのとある王国に、ベラという名のとても美しい王女がいました。
王家の気高い血を受け継いだベラは、その華美(かび)な容姿に恵まれただけでなく、生まれながらにして魔法が使えました。
そうです、王国と魔法とは切っても切り離せない関係にあったのです。
しかし、その能力を妬む者がいるのもまた事実でした。
ほかでもない魔物です。
彼らはおよそ人間とは呼べない姿をしていて、おそろしい森の奥深くに棲むとも、地獄の門をくぐってくるとも言われていました。
ある満月の夜、ベラはこっそり城を抜け出して、城下町で催されているバザーを見に行きました。
昼間の明るいうちに外を出歩くと、誰かに王女だと見抜かれる危険があるからです。
ほんとうなら二十歳を迎えないと城からは出られないベラ、彼女はまだ初々しい花の十五歳です。
どれだけたくさんの書物から知識を学んでも、その好奇心を満たすことなどできません。
「うわあ、すてき。なんて賑やかな場所なのかしら」
さまざまなテントをゆっくり見てまわりながら、白いローブを身に纏ったベラは小さく飛び跳ねました。
暗闇に浮かびあがるランタンの灯りが、道行く人の横顔を照らして揺れています。
「そこの可愛いお嬢さん、こんな時間に一人でどうしたんだい?」
不意にグリズリーの露天商に呼び止められ、ベラは笑顔をくずさずにお辞儀をしました。
「こんばんは。ペガサスにあげる木の実を探しているの」
するとグリズリーは言いました。
「残念だけど、うちが扱っているのは織物なんだ。木の実が欲しいなら、ピクシーの店に行ってみるといい」
「ピクシーのお店ね。わかったわ。どうもありがとう」
ベラは丁寧にお礼を言って、グリズリーに教えてもらった道順をたどります。
バザーはどこも大盛況でした。
きれいな鉱石の並んだ店に寄り道したり、パンとチーズでお腹を満たしたり、ベラはなんだか冒険をしているような気分になりました。
そうして双子の雑貨店を通り過ぎた頃、ようやくそれらしい雰囲気のテントが見えてきました。
店先に盛られているのは、どれもこれもベラの口にしたことのないような木の実ばかりです。
どうやら果物も扱っているようで、熟した果実の甘い匂いがベラのところにまで漂ってきます。
「いらっしゃい。おやおや、誰かと思えば人間の女の子じゃないか」
あらわれたのは、とんがり帽子をかぶった妖精でした。