凌辱姫-3
あふれ出した果汁はベラのあごから首すじをつたい、胸元に垂れて肌を濡らしていきます。
月明かりの差し込む青白い部屋で、ベラはひたすら食べつづけました。
そしてとうとう、赤い果実は小さな種だけを残してベラの中に取り込まれたのでした。
神聖な儀式を終えて、ベラは自分の両手に視線を落とします。
とくに変化は見られません。
そうよね、そんなにうまい話があるわけないもの──ベラはそのままベッドに横たわり、いつしか深い眠りに落ちていきました。
翌朝、空中庭園の見渡せるバルコニーにベラ王女の姿がありました。
間もなく翼の生えたペガサスが駆けてきて、王女の匂いを嗅ぐように擦り寄ってきます。
「おはよう。気持ちのいい朝になったわね」
すがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込んで、太陽の恵みに感謝するベラでした。
大地も空も海も、いつもと変わらない色をたたえてそこにありました。
その直後のことです。
貧血のようなめまいをおぼえたベラは、ふらつきながらすぐそばの壁に寄りかかりました。
おかしいなと思っているうちに耳が熱くなってきて、意識はだんだん朦朧(もうろう)としてきます。
月経かもしれない──そんなふうに心配していた矢先に、夕べの出来事がよみがえってきました。
魔法の果実、いいえ、禁断の果実がベラの体を蝕みはじめたのです。
「はあ……はあ……からだが……あつい……」
偉大な魔力と引き換えに、王女の大切なものを差し出せとでも言うのでしょうか。
ベラがどんなに足掻いても、侵食は止まることなく進行していきます。
「おみず……おみずを……ちょうだい……」
水を求めてベラは庭園に出ました。
靴を脱ぎ捨てて、小さな池の湧き水を両手ですくうと、そこに顔をうずめるようにしてごくごくと飲み干します。
いくらか火照った頬に、冷たい水が染み込んでいくようです。
でも、水面に映る自分と対面したベラは言葉を失いました。
なぜなら、絵画のように美しいプリンセスがそこにいたからです。
十五歳の自分自身に違いないのに、目元も、口元も、大人びた色気が滴っているのです。
そうだ、魔法を試してみよう──ベラは書物で読んだことのある呪文を唱えてみました。
するとどうでしょう、水中花のつぼみが一斉に咲きはじめるではありませんか。
ベラは大変おどろきましたが、どうやらすごい力を手に入れたらしいという喜びもありました。