凌辱姫-10
そう叫んだピクシーは髪の毛を宙に放り投げて、すかさず呪文を唱えました。
ブロンドの毛髪は瞬く間に鋭い槍に変わります。
さらにピクシーはその槍を魔女めがけて放ったのです。
その瞬間、魔物たちの波がどっと押し寄せて、魔女に敗れた兵士たちの亡骸(なきがら)がなだれ込み、主人の盾となり、あるいは剣となるのでした。
魔女とピクシーの視線が交錯します。
そしてお互いの力量を認め合ったあと、先にくずれ落ちたのは魔女のほうでした。
かっと両目を見開いて、信じられないといったふうに苦悶の表情を浮かべます。
「うっ……、どうして……、なの……」
槍は見事に魔女の体を貫通していました。
その有り様を静観していたピクシーの目の前で、アポカリプスの思念が、魂が、断末魔の叫びをあげながら魔女の体から抜けていくのでした。
それはまるで陽炎のように揺らめいて、跡形もなく蒸発していきました。
あとに残ったのは、力尽きて気絶した十五歳の少女だけ。
その透き通るほど白い体のどこにも傷を負った痕跡はありません。
こうしてピクシーのたゆまぬ活躍によって、ベラはようやく自分を取り戻したのでした。
もちろん王も王妃も大よろこびです。
存亡の危機にあった王国も、さらなる発展と繁栄に向かって動き出すことになるのでしょう。
それから数か月後のことです。
すっかり気持ちを入れ替えたベラ王女は、城のバルコニーで外の風にあたっていました。
あまりの心地よさに、歌でも歌いたい気分です。
ところが、そんなベラの体に異変が起こりました。
何の前触れもなく吐き気をもよおし、子宮がよじれるような腹痛がおそってきたのです。
「あ……、お腹が……、痛い……」
とても立っていられる状態ではありません。
そこでベラは思い出します、あれから一度も月経がきていないことを。
まさかと思った時にはもう手遅れでした。
痛みはいつしか甘い疼きに変わり、何かが産まれる気配がベラの内側を容赦なく凌辱します。
魔物の母親になる──そんな思いが脳裏をかすめた時、ベラの意識はゆっくりとまどろんでいきました。
……という、むかしむかしの世界の果ての物語でした。