我ら純情中学二年生-1
シャープペンシルをはしらせる手が止まる。
豊(ゆたか)は視線を上げてあくびをした。
「参ったなあ、ぜんぜん勉強に集中できないや」
気分転換にと参考書のひとつを手に取り、適当にぱらぱらとめくっていく。
するとページの隅に描いた落書きがコマ送りで動きだした。
しばらく眺めていたら……。
「ねえ、こんな感じでどうかな?」
同級生の達矢(たつや)が横から話しかけてきた。
見開いたノートに何かの図形が描いてある。
どうやら達矢の自信作らしいが、豊はリアクションに困った。
いまいちぴんとこない、というのが正直な感想だ。
「ちょっと違うような気がするけど」
「ふうん、そっか」
達矢が残念そうに口を曲げる。
彼としては忠実に再現したつもりでいたのだが。
何はともあれ、二人はいま勉強会の真っ最中なのだ。
学内での成績で言えば、彼らは常に中の下あたりをキープしており、優等生でもなければ落ちこぼれでもない、なんとも緊張感のない学校生活を送っていた。
けれども高校受験をいよいよ来年に控え、どちらの顔にも焦りの色が見えはじめたもんだから、さあ大変。
というわけで、どうにかして合格ラインに近づきたい二人は、とりあえず達矢の部屋で必死に頭をひねっていたのだが、これがなかなかはかどらない。
本棚を埋め尽くす少年漫画の単行本や、最新のテレビゲームとソフト、おまけにベッドの下には成人雑誌が隠してある。
そんな環境の中で勉強しろと言うほうが間違っているのではなかろうか。
「ようするに、実物を見たほうが早いってことだね?」
先ほどの図形を見ながら達矢は訊いた。
「うん、まあ、それはそうなんだけど」
豊は明らかに照れている。
いま彼らが向き合っている図形とは、およそ以下のようなものである。
まず、二重の円を貫くように縦線を引き、それから円の左右にもそれぞれ三本ずつ、放射状に短い線をちょんちょんと描いて、はい出来上がり。
一見すると太陽みたいなこのマーク。
達矢いわく「おんなのあそこ」なのだそうだ。
家の近所に冴えない浪人生が住んでおり、たまにエロい情報を提供してくれるので、達矢は尊敬の意を込めてそのお兄さんのことを「師匠」と呼んでいた。
太陽マークの描き方もその師匠に教えてもらったのだ。
ソープランドがどれだけ素晴らしい場所であるか、ということまでちゃっかり伝授してもらっていた。
「やばい、ちんちんが起ってきた」
かちかちに硬くなった股間を手で押さえる達矢。
すかさず豊がベッドの下から雑誌を引っ張り出す。
いわゆるエロ本である。
巨乳で可愛らしいお姉さんが挑発のポーズで表紙を飾っている。