我ら純情中学二年生-3
「達矢の姉ちゃんてさ、何年生だっけ?」
「高二だけど」
「そうか、高校二年生か」
「それがどうかした?」
「ものすごく大人だなと思ってさ」
「大人は二十歳からだろ?姉ちゃんはまだ十七だよ」
わかってないな、と言ってから豊はこう説明した。
「女っていうのはさ、生理がはじまったらもう大人なんだよ」
「へええ、そうなんだ」
達矢は曖昧に返事をした。
異性の体の仕組みについては、あまり深く考えたことがない。
「ところで、生理って何?」
達矢この質問に、豊は即答できずにいた。
下手なことを言って墓穴を掘るわけにはいかない。
つまり、彼自身もほとんど知らない分野の話なのだが。
「教えて欲しいか?」
「うん」
「俺から聞いたなんて誰にも言うなよ?」
「言わない」
豊は腕組みをして思考をめぐらせた。
さて、どうしたものか……。
「ひょっとしてだけど、ほんとうは豊も知らないんじゃないの?」
怪しむ目つきで達矢が訊いてくるので、何か言わねばと思った豊は適当にはぐらかした。
「あ、えっと、そうだ、達矢は焼き肉って好き?」
「いきなり焼き肉の話?どうして?」
「いいから答えろ」
変なことを言うやつだなと思いながらも、達矢は答えた。
「うん、好き」
「まあそうだろうな」
「それで?」
「じつはさ、この焼き肉が生理と関係あるかもしれないんだ」
「まじで?」
達矢はまだ半信半疑である。
「いいか達矢、重要なのはここからだ。まずは焼き肉屋のメニューを想像してみてくれ」
「うん、想像した」
「何を注文する?」
「そうだなあ、牛カルビが三人前と、ロースは値段が高いから一人前にしといて、あとは豚トロとライスの大盛りかな」
「ほかの肉は食べないのか?」
「ほかの肉って?」
「たとえばホルモンとか」
「ああ、あれか、あんまり好きじゃないんだよね。焼き肉と言ったらやっぱりカルビだよ」
「だよな」
豊が同調したところで一旦会話が途切れる。
達矢はしばし考えた。
いまのやり取りの中に、果たして生理にまつわるヒントが隠されていたのだろうか。
「あっ」
突如として達矢は閃いた。
「ホルモン?」
「ビンゴ!」
「そういえば姉ちゃんが言ってたような気がする。確か、女性ホルモンがどうのこうのって」
「だろ?」
豊は調子に乗り、さらにとんでもないでたらめを披露する。
「生理になるとあそこから血が出るのは知ってるだろ?」
「まあ、なんとなく」
「あれはただの血じゃなくて、じつは赤いホルモンなんだ」
それを聞いた達矢は、まだ見ぬ赤いホルモンの映像を思い浮かべてみた。
おそろしく衝撃的ではあるけれど、クラスの誰よりも早く大人になりたいので笑顔を繕った。