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追憶のアネモネ
【その他 官能小説】

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心霊スポット-1




「ねえ、やっぱりやめとこうよ」

車の助手席側から降りた彩夏(あやか)の第一声がそれである。

「大丈夫、幽霊なんか出るわけないって」

ボーイフレンドの透(とおる)が余裕しゃくしゃくに言う。

そして車のドアをロックすると、ハザードランプが不気味に点滅した。

それを最後に、明かりと呼べるものは一切なくなった。

生い茂った雑草が足首を撫でており、おまけに小さな虫も飛び交っているため、彩夏の不快指数は上がる一方だ。

「んもう、来るんじゃなかった」

あまりにもガールフレンドがごねるので、透はちょっぴり反省した。

確かに、どちらかというとデートには適さない場所である。

腕時計の文字盤を見ると、間もなく零時になるところだった。

二人の前方にはおどろおどろしい雰囲気の建物がそびえ立っている。

白い外壁のところどころが崩れ落ち、中の鉄骨が剥き出しになっている箇所もある。

窓に至っては何十枚というガラスが見る影もない。

「肝試しなら透くん一人でやってよ」

「別にいいけど、そうすると彩夏ちゃんは車でお留守番ってことになるよ?」

「えっ、そんなのやだ」

「だったら行こうよ」

透はさっさと歩き出す。

彩夏もすぐに後を追うが、ヒールの高い靴を履いているので歩きづらい。

「ねえ、待ってよ。ねえってば」

透の背中がだんだん遠ざかっていく。

こんなことになるんだったら怖いビデオなんか観るんじゃなかった、と彩夏は大いに後悔した。

それは数時間前の出来事だった。

自称「心霊オタク」の透にそそのかされて、二人してそういうビデオを借りてきたまではよかったが、とある映像を観ていた彼が、

「俺、ここ知ってる」

と真面目な顔で言うもんだから、彩夏は嫌な予感をおぼえたのである。

そして透はこうも言った。

「よし、行ってみよう」

当然のことながら彩夏は難色を示した。

心霊スポットなんて冗談じゃない。

大体、そんなところに行って何が楽しいというのか。

しかし透は聞き入れてくれなかった。

擦った揉んだの末、彩夏が折れる格好になったのは言うまでもないが。

「おお、すげえ」

廃屋の入り口らしき場所を見つけた透が感嘆の声をあげる。

この建物内のどこかに、あの世の者が潜んでいるはずなのだ。

透は懐中電灯のスイッチを入れ、細長い光の行く先に目を凝らすと、立ち入り禁止のロープが張られているのに気づいた。

その向こうは、闇、闇、闇、である。


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