心霊スポット-9
とんでもないものを見てしまった二人は、我先にと競い合うように出口を目指して走り出す。
果たしてあの化け物から逃げ切れるのかどうか、とにかく無我夢中で全力疾走する。
「彩夏ちゃん、さっきの見た?」
「うん、変なの見ちゃった」
「あいつ、絶対やばいよ、本物だよ」
「透くんのせいなんだから、透くんが何とかしてよ」
息も絶え絶えに階段を駆け上がり、ようやく見つけた非常口の手前で若いカップルは立ち止まる。
そこには無数の手形のような跡がびっしりと付着していた。
行くか戻るか、二つに一つだ。
背後からは亡者の気配が迫ってきているし、意を決した透は非常口からの脱出を試みることにした。
が、扉が開かない。
「透くん、はやくしてよ!」
「やってるよ!」
「あいつが来ちゃうってば!」
「くっそ、何で開かないんだよ!」
透がぐずぐずしているあいだに、さまよえる死者は這いつくばってわしわしと階段を上がってくる。
万事休す、か──。
透は渾身の力を振り絞って扉に体当たりした。
そして弾き飛ばされるようにして非常口を突破し、背中で扉を閉める。
「あぶなかったあ……」
肺に溜まったものを一気に吐き出し、ガールフレンドと共に小休止しようと思った時だった。
扉の反対側を振り返った透の目と鼻の先に、ぐにゃりと潰れた真っ赤な果実が浮かんでいた。
いや、それは血みどろになった人間の頭部そのものだった。
「いぎっ?」
透はそのまま気を失い、一人残された彩夏もまた失神寸前に。
徐々に薄れていく意識の中、彩夏が最後におぼえていたのは、局部の穴から子宮に侵入してくる何者かの感触だけだった。
「やめて、あたしの中に、入ってこないで……」