心霊スポット-6
透は手も洗わずに男子トイレを出た。
まさか蛇口から水が出るとも思えない。
いや待てよ、だとするとトイレの水も流れないのでは──透は納得のいかない顔で女子トイレ側をのぞいてみる。
「彩夏ちゃん?」
が、その呼びかけに応える者はない。
「先に戻ってるからね?」
一応そう断ってその場を離れようとした時、今度は女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。
深い井戸の底から這い上がってくるような恨めしい声だ。
透は女子トイレを振り返る。
耳の錯覚なんかではなく、確かに聞こえる。
「彩夏ちゃん、どうかしたの?」
心配になった透は声のするほうへと向かう。
女子トイレには個室が四つあり、そのうちの一つから声がする。
彩夏ちゃん、彩夏ちゃん、と透が何度呼んでも返事がない。
「わかったよ、もう帰ろう。心霊スポットなんかに連れて来た俺が悪いんだ」
慰めるような口調で透が言うと、すすり泣きはぴたりと止み、右奥の個室から人影があらわれた。
暗がりでよく見えないが、透はその人影が彩夏だと疑わず、こっちへおいでと手を差し伸べるのだった。
一方、その頃──。
悲鳴のようなものを聞いた彩夏は、忙しい手を咄嗟に止めて顔を上げた。
トイレに行ったはずの透がなかなか帰って来ないので、独りきりで火照った体を持て余し、仕方なく自分で自分を慰めていたところだった。
その名残がまだ手指や太ももを濡らしている。
それにしてもさっきの悲鳴は気のせいだったのか、耳に届くのは自分の荒い息遣いだけである。
戻らない薄情者のことは放っておいて、彩夏は自慰行為を再開させて思いきりあえいだ。
くちゃくちゃくちゃ、くちゅくちゅくちゅ──穴をもてあそぶ音が病室中に響く。
けれども自分の細長い指では硬さが物足りない。
気怠(けだる)そうに近辺を見渡し、傍らの懐中電灯に手を伸ばす。
理想的な手触りがある。
すごくいいかもしれない──彩夏はそれを局部にあてがい、少し挿入してGスポットを圧迫させた後に、いちばん深いところまで押し込んでやった。
「ああ……」
背中がぶるぶる震えた。
「気持ちいい……」
出したり入れたりを繰り返しながら、抜け出せない快楽の底へと一気に沈んでいく。
立っているのがかなりつらい。
彩夏はそのままひざまづき、そして四つん這いの姿勢になってオナニーに耽った。
股間は洪水、瞳は潤んで、汗の玉が肌をすべる。
彩夏は快感の悲鳴をあげた。
すると突然、背後に人の立つ気配があったので、透が帰ってきたのだと彩夏は思った。