投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

追憶のアネモネ
【その他 官能小説】

追憶のアネモネの最初へ 追憶のアネモネ 16 追憶のアネモネ 18 追憶のアネモネの最後へ

心霊スポット-3

「げっ、踏んじゃった」

透はぎょっとした。

靴で何かを踏んでしまったようだ。

灯りで足元を照らしてみると、そこには無数の注射器が落ちていた。

さらに透を憂鬱にさせたのは、これまた大量に放棄された避妊具の残骸だった。

「何でこんなところにコンドームが落ちてんだよ、まったく」

とか言いつつも、その様子をしっかりと撮影していく。

外壁がそうだったように、屋内の壁もまた塗装の剥がれがひどかった。

多分、アスベストの問題などまるで知らない時代の建物である。

匂いからして体に悪そうな気がした。

透は一瞬息を止め、苦々しい顔をつくった。

が、次の瞬間にそれは驚愕の表情に変わる。

すぐそこを黒い影がよぎったのだ。

俺、やばいものを見ちゃったかも──恐怖のあまり声を発することなどできない。

すると今度は恨めしそうな唸り声が聞こえたかと思うと、闇の中に怪しい発光体があらわれた。

まさしく心霊現象である。

こいつはきっと大スクープになるぞ──透は震える手で動画撮影を試みたが、不思議なことに、急にカメラ機能が作動しなくなってしまった。

「くそっ、どうなってんだよ」

焦る透を嘲笑うかのように、謎の発光体がせわしく明滅(めいめつ)する。

侵入者を威嚇し、ここから立ち去れと警告を発しているのかもしれない。

しかもよく見ると発光体は一つではなく、二つ、三つ、四つ……いやそれ以上の数だった。

「うわああああ!」

透は叫びながら無我夢中で懐中電灯を振り回した。

消えろ、こっちに来るな、と必死の形相だ。

そうして迫り来る発光体にライトを当てた時、違う意味で透の表情は凝固した。

「あれ?」

間の抜けた声を漏らし、もう一度よく目を凝らしてみる。

「まじかよ……」

透はようやく合点した。

オーブのような心霊現象の正体は、なんと野良猫の目が光っているだけだった。

そうだとわかるや否や、急に可笑しくなってきた透は引きつった笑みを浮かべ、その部屋を後にしようと振り返る……が。

「ひいっ?」

そこで透は声を失った。

大きく見開かれた何者かの目が、至近距離でこちらを睨んでいたのだ。

完全に女の幽霊だった。

「あ……た……し……が……見……え……る……の?」

紅い唇がそう告げる。

透は腰を抜かし、口から泡を吹くような吐き気をもよおした。

絶体絶命の四文字が脳裏をかすめ、まるで金縛りに遭ったように全身が動かない。

ふふふ、と女の幽霊が笑う。

そして、

「透くん、あたしよ、あたし」

と勝ち気な調子でしゃべった。


追憶のアネモネの最初へ 追憶のアネモネ 16 追憶のアネモネ 18 追憶のアネモネの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前