心霊スポット-3
「げっ、踏んじゃった」
透はぎょっとした。
靴で何かを踏んでしまったようだ。
灯りで足元を照らしてみると、そこには無数の注射器が落ちていた。
さらに透を憂鬱にさせたのは、これまた大量に放棄された避妊具の残骸だった。
「何でこんなところにコンドームが落ちてんだよ、まったく」
とか言いつつも、その様子をしっかりと撮影していく。
外壁がそうだったように、屋内の壁もまた塗装の剥がれがひどかった。
多分、アスベストの問題などまるで知らない時代の建物である。
匂いからして体に悪そうな気がした。
透は一瞬息を止め、苦々しい顔をつくった。
が、次の瞬間にそれは驚愕の表情に変わる。
すぐそこを黒い影がよぎったのだ。
俺、やばいものを見ちゃったかも──恐怖のあまり声を発することなどできない。
すると今度は恨めしそうな唸り声が聞こえたかと思うと、闇の中に怪しい発光体があらわれた。
まさしく心霊現象である。
こいつはきっと大スクープになるぞ──透は震える手で動画撮影を試みたが、不思議なことに、急にカメラ機能が作動しなくなってしまった。
「くそっ、どうなってんだよ」
焦る透を嘲笑うかのように、謎の発光体がせわしく明滅(めいめつ)する。
侵入者を威嚇し、ここから立ち去れと警告を発しているのかもしれない。
しかもよく見ると発光体は一つではなく、二つ、三つ、四つ……いやそれ以上の数だった。
「うわああああ!」
透は叫びながら無我夢中で懐中電灯を振り回した。
消えろ、こっちに来るな、と必死の形相だ。
そうして迫り来る発光体にライトを当てた時、違う意味で透の表情は凝固した。
「あれ?」
間の抜けた声を漏らし、もう一度よく目を凝らしてみる。
「まじかよ……」
透はようやく合点した。
オーブのような心霊現象の正体は、なんと野良猫の目が光っているだけだった。
そうだとわかるや否や、急に可笑しくなってきた透は引きつった笑みを浮かべ、その部屋を後にしようと振り返る……が。
「ひいっ?」
そこで透は声を失った。
大きく見開かれた何者かの目が、至近距離でこちらを睨んでいたのだ。
完全に女の幽霊だった。
「あ……た……し……が……見……え……る……の?」
紅い唇がそう告げる。
透は腰を抜かし、口から泡を吹くような吐き気をもよおした。
絶体絶命の四文字が脳裏をかすめ、まるで金縛りに遭ったように全身が動かない。
ふふふ、と女の幽霊が笑う。
そして、
「透くん、あたしよ、あたし」
と勝ち気な調子でしゃべった。