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追憶のアネモネ
【その他 官能小説】

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心霊スポット-2

それにしても遅いなあ──透は後方を振り返り、なかなか追いついて来ない連れの姿を探す。

「彩夏ちゃーん、……、……」

返事がないので透は首をかしげた。

もしかしたら、やっぱり車で待つことにしたのかもしれない。

もし彼女の身に何かあれば、携帯電話に着信があるだろう。

「しょうがないなあ」

透は苦い顔で髪を掻きむしり、ここから先は自分一人で行くしかなさそうだなと腹をくくった。

難無くロープをくぐり抜けると、足元に注意しながら建物内に侵入した。

「痛っ!」

と、いきなり頭をぶつけてしまった。

足元だけではなく、頭上にも注意する必要がありそうだ。

剥がれ落ちたコンクリート片に足を取られながらも、透はどんどん奥へ進んでいく。

ふと、不気味な感覚が胸に去来した。

この廊下は何となく見覚えがある。

例のビデオ映像と比較しても疑う余地はなかった。

やはり、ここをおとずれた何者かがあの動画を投稿したのだ。

すると突然どこかで物音がした。

がしゃん、という金属が床に落ちるような乾いた音だ。

「彩夏ちゃん、そこに居るの?」

透の声は恐怖で上擦っていた。

彼女の仕業であるはずがないと知りつつも、そう言わずにはいられなかったのだ。

「隠れても無駄だよお、早く出ておいでえ」

見えない相手に向かって透が牽制(けんせい)する。

大丈夫、大丈夫、怖くない、怖くない──そう自分自身に言い聞かせながら、視界の利かない中を壁づたいに歩いた。

おや、ここは何の部屋だろう、と透は足を止めた。

そして懐中電灯で照らした先に「処置室」という文字が浮かび上がるのを見て、思わず頬を強張らせる。

その向こうは「診察室」とある。

透はあらためて思い知る、この建物がかつて病院だったということを。

そんな時にまたしても物音が聞こえた。

不意を突かれたため、心臓が早鐘(はやがね)を鳴らしている。

「そこに居るんだろう?」

処置室に人の気配を感じた透の問いかけに、応答する者はない。

恋人の前で幽霊の存在を否定した手前、このまま引き下がるわけにもいかず、透はおそるおそるドアノブに手をかける。

そして手首をひねるとドアは簡単に開いた。

先のビデオ映像が浮遊霊を捉えたのは、確か「手術室」や「霊安室」だったと透は記憶している。

なので、少なくともこの部屋は何も出ないだろうと思われた。

透は懐中電灯を持ち直し、もう一方の手に携帯電話を準備した。

それを動画モードに切り替えると、いよいよ室内へと踏み込んだ。


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