夜這いする、の巻-5
そうだ、ひらめいたぞ、得意な猫の鳴き真似をすればいいのだ。
「みゃーう」
わざとらしい鳴き声のあとに、駄目押しのもう一鳴きを。
「にゃーう」
「猫ちゃん?そうなの?」
作戦通り、かなり警戒しているふうに彼女がたずねてくる。
ぼくはしばらく黙(だんま)りを決め込んだ。
「ちょっと、何とか言いなさいよ」
彼女の声は緊張して上擦っていた。
ほんとうはぼくだってこんなお芝居なんかしたくないし、嘘偽りのない、ありのままの自分を君に見て欲しいんだ。
ええい、こうなったら堂々と見つかってやろうじゃないか。
そう腹を決めたぼくは、こちらに向かって来る彼女の気配を感じ取ると、窓際に立って待ち構えた。
もしもーし、と言いながら彼女の声がだんだん近づいて来る。
果たして勢いよくカーテンが開け放たれ、そこでぼくらはお互いを認識し合ったのである。
まず、彼女はびっくりしていた。
それに、あんなにはだけていたはずの部屋着は乱れた様子もなく、護身用のフライパンを手にしたまま立ち尽くしている。
やはり不審者を歓迎する気はないらしい。
けれどもぼくが軽くお辞儀をすると、彼女の表情から疑問符が一つ二つと消え、やがて納得したように頬をゆるめるのだった。
ああ、君だったんだ──ほっとした彼女の顔にはそう書いてあった。
ほら、いつの間にか笑顔になっちゃって、そうやってまたぼくの心をさらっていくんだ。
不意に窓が開き、室内の空気が外に漏れてくる。
嗚呼、女の子の匂いだ。
そんなふうに鼻をひくつかせるぼくに向かって、おいでおいでと手招きする彼女。
ぼくはそのままその人に吸い寄せられるかたちで、けっして侵してはならない神聖な部屋に上がり込むのだった。
それにしても、まさかまさかの展開である。
何かの間違いなのか、それとも甘い罠か、どちらにしてもぼくは今憧れの人の部屋に招かれている。
名前も知らない若くてきれいなお姉さん──彼女が何を考えているのかぼくにはわからない。
「二人だけの秘密だから、誰にもしゃべっちゃだめだよ?」
そう言って彼女が服を脱ぎはじめるものだから、ぼくは思わず息を呑んだんだ。
ブラジャーをぽろり、ショーツがちらり、しまいにはそれらも脱ぎ去って全裸になる。
「ほら、いっぱい遊んであげる」
両手を広げる彼女に遠慮などせず、ぼくは瞬きしないよう注意した。