夜這いする、の巻-3
ひたひたと足音を忍ばせ、青白い月明かりを頼りにとなりのアパートを目指すぼく。
ちなみに彼女の部屋は二階の角部屋である。
ほんとうなら玄関から訪ねるべきだとわかってはいるが、諸事情により正攻法が使えないので、ぼくはとりあえずベランダから失礼することにした。
物陰から物陰へと身を潜め、それこそ張り込み中の刑事みたいに慎重な動きを繰り広げながら、どうにかこうにか彼女の部屋の真下にまで辿り着いた。
さて、ここからどうするかというと、もちろん二階までよじ登るしかないだろう。
さっと辺りを見渡し、人気(ひとけ)がないのを確認する。
よし、今だ。
持ち前の瞬発力を生かし、ぼくは軽く地面を蹴飛ばした。
いいぞ、うまくいった。
ぼくの体は木の葉のように舞い上がり、そして紙飛行機のように二階のベランダに着地した。
まずは目の前のサボテンくんに、はじめましての一礼を。
そこからさらに身を低くし、室内の様子をうかがおうと視線を移すと、閉じたカーテンのあいだにわずかな隙間があるのに気付いた。
微量ながら灯りも漏れている。
どうやら彼女が居るのは間違いなさそうだ。
そうするといよいよ部屋の中をのぞき見してみたくなり、えい、とばかりにカーテンの隙間から視線を差し込めば、六畳ほどの空間に配置された家具などがばっちり見えた。
どちらかというと夜が得意なぼくなので、視界はすこぶる良好だ。
ふむふむ、なるほど、女の子らしい生活感が部屋のあちこちに散りばめられている。
天井のLEDライトが弱い光を放ち、四角い空間をオレンジ色に染めていた。
ベッドが見当たらないということは、右奥に見える襖(ふすま)の向こうが寝室になっているのかもしれない。
そんなことを思っていると、まさにその襖が開いて部屋着姿の彼女があらわれたのだった。
ぎくりと体を硬直させたぼくは、それでもしぶとく彼女の動向を目で追った。
部屋着姿とはいえ、なんという恵まれたルックスをしているのだろう、と生唾を飲み込まずにはいられないぼく。
まるで、ご馳走を目の前にしておあずけを喰らっているみたいな気分だ。
今夜のメインディッシュである彼女は、何かをためらう素振りをした後に、某ゆるキャラの長座布団に女の子座りをした。
そしてなぜか自分の手元を見ながらしきりに首を傾げている。
やがて意を決したのか、彼女はそっと身構えてから手元にあるそれを操作した。