夜這いする、の巻-2
ところで、年頃の女性の私生活とは一体どういうものなのか、あれこれ想像せずにはいられないわけで、ぼくはもっぱら彼女の部屋のベランダを見上げては、恋患(こいわずら)い特有の女々しい溜め息をついていた。
「ふう……」
暇さえあればこんな調子なのである。
あの窓の向こうに未知なる世界が広がっているのだ。
そう思うだけでついつい鼻の下が伸びてしまい、偏った妄想の中に彼女の姿を描く毎日。
それはテレビを見ながらくつろぐ姿だったり、あるいは入浴中の滴り落ちそうな柔肌だったり、もちろんもっと過激なシーンなども。
ベッドの上ではどんな顔をして、どんな声でよがり泣き、どんなふうに身悶えるのか、いちばん感じる性感帯は、好きな体位は、性格はSかMか……などなど知りたいことは山ほどある。
しかし妄想が過ぎると逆に悲しくなる時もあるので、ほどほどに現実を見失わないよう気をつけてはいる。
ところでベランダといえば、彼女の洗濯物や布団が干してある時には、ぼくは遠慮なく目の保養をさせてもらっているのだけれど、いつからだろう、緑色の物体が置いてあるのをちょくちょく目撃するようになった。
そいつは決まって昼間にあらわれ、夜になると居なくなっている。
外来種──そう、そいつは鋭い棘(とげ)を持つサボテンだった。
ようするに暖かい日中はベランダに出しておいて、気温の下がる夜間は室内に退避させておく、といったところだろう。
これで結構きれいな花を咲かせるというのだから、人を見かけで判断するのはよくないなと価値観をあらためた。
もとい、この場合は人じゃなくて植物になるのか。
それはさておき、郷里から離れての一人暮らしは何かと心細いだろうし、だからといってアパートでペットを飼うのは禁止されているから、仕方なくサボテンを育てることにしたのかもしれない。
まあ、ぼくにはまったく関係のないことだけど。
そんなある日のこと、几帳面な彼女にしては珍しく、夜になってもサボテンが外に出しっぱなしにしてあったので、ぼくは直感的に嫌な胸騒ぎをおぼえたのだった。
もしや、あの人の身に何か起きたのか、それともこれから起こるのか。
どんなに目を凝らし、耳を澄ませ、鼻を利かせてみても、ぼくごときが異変を察知することなどできるはずもない。
ただの思い過ごしならいいのだけれど、念のために彼女の安否を確かめたほうがいいと思ったぼくは、ついに均衡を破る大きな第一歩を踏み出すのだった。