あるのは ただ憎悪のみ-1
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夏休みのある日、僕はショッピングモールに出かけた。
書店に、ひとりでコミックスの背文字を見つめている、ノースリーブスを着た 六年生くらいの女の子がいた。
僕は、シカメっ面をしながら ゆっくり彼女に近づいていった。
女の子が気づいて、僕の顔を見上げた。僕はすかさず言った。
「なんだ。キミのワキの下のニオイだったのか。」
女の子は驚いて、ワキの下を指でこすって 指先のニオイを嗅ぎはじめた。
僕はさりげなくその場を去っていった。
百円均一に行くと、中学校の制服を着た女の子が、買い物カゴを下げて オシャレグッズを次々と放りこんでいた。
彼女がしゃがみこんで、棚の下に置かれたグッズをさぐりはじめた。僕は女の子に近づいて、隣にかがんだ。
彼女が(何、このオッサン?)と言った表情で僕を見ると、僕はすかさず言った。
「キミ、ニオうけど メンス始まってるの?」
女の子はスカートを押さえて立ち上がると、買い物カゴをそのままに走り去っていった。
………
別に僕は、彼女たちのニオイを感じとったワケじゃない。
あの年ごろの女の子に「カラダがニオう」と言った時の、困惑した表情を見るのがたまらない。
女の子たちがそれから、自分のカラダのニオイはそんなにキツいのかしら、なんて神経過敏になるかも知れないと考えると、ゾクゾクしてくる。
女の子を傷付けるのに刃物なんかいらない。
「言刃(ことのやいば)」があればいい。
僕は、女の子の心を一撃で深くえぐれるように、日ごろから言刃を研いでいる。