あるのは ただ憎悪のみ-3
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「女といふものは実に悪いものだ。この世の中から、女が一人でも少くなつたら、それだけ、世界がいゝところになるであらう。さうだ。わしはこれから、毎日、一人づつの女を殺す事にしよう。」
……
小さなころ、自宅の本棚にあった旧仮名づかいの『アラビアンナイト』。その序章に出てくるシャーリアール王の言葉は、僕の心を強くとらえた。
しかし、王がなぜそんな気持ちになったのか は、
……シャーリアルという王様が…大そう、お妃さまを可愛がつていらつしやいました。ところが、このお妃様は、心のよくない方だつたものですから、王様が外へお出ましになつたるすに、大変、悪いことをなさいました。……
なんて説明しかされてなかった。僕は小学五年生の時に、図書館にあった本物のアラビアンナイトで、その真実を知った。
お妃は王様の留守中に、チンポの大きな男とセックスしてたんだ。
僕は思った。お妃なんて立場にある女性でさえ、王様というダンナを裏切るんだ。
権力も、財力も、いい顔も、でかいチンポも持ち合わせない僕なんか、ひとたまりもないじゃないか。
僕は、王のように女に裏切られないうちに、先回りして女を攻撃してやろうと思っていた。
だけど、裏切りに先回りされた。
高校二年生になった僕が、家のリビングでノートパソコンを使ってた時だ。母と母の友人たちが、バザーに出す品物のチェックをしていた。
リビングのテレビに芸能情報が映っていて、中学生のイケメンアイドルが、自分の出る映画の宣伝をしていた。
「こんなコが、息子だったらよかったのになぁ〜」
母の声がした。そうだ、母も女だったんだ。あのお妃同様、イケメンとでかいチンポが大好物の女だったんだ。
幕が降りた。
僕は黙ってパソコンを閉めると、リビングをあとにした。どうもその時まで、誰も僕がリビングにいたことに気がついてなかったらしい。
「違うの、違うのよ！ そういう意味じゃなかったのよ！」
あとからそう言って僕を追ってくるのは、母と呼んでいた女だった。
それから僕は必要最小限しか、その女と話さなくなった。
しばらくして行われた、進路について話し合う三者面談で、僕はその女の前でいきなり、大学進学から就職に進路をかえたいと言った。
その女も、進路指導の女性教師も驚いた。
「君、どうしてなの？ この成績なら志望校どれでも余裕で行けるわよ。」
「いえ、もういつまでも『この女』の支援でやっていたくないんです。」
「もう、『この女』って何よ。お母様でしょ。」
「先生、先生も女だからと言って、『この女』の肩を持たないでください。」
僕はその席で初めて、女にダメージを与える快感を得た。僕の言葉にうろたえる女性教師、その女はうつむいて黙るばかり。
シャーリアール王が夜毎一人の女を城に招いて、セックスしたあと、大臣に女ね首を刎ね（はね）させたという、あのエピソードが「女を言葉で斬る」ことで再現できるなんて。
高校からの帰り道、その女はつぶやいた。
「まだ、あのこと根に持ってたのね。」
僕は苦笑した。（根に持つ、か…… 自分は悪くないのに ってことか？）
僕はその女に言った。
「あなたは天国に行くし、僕は地獄に行く。
その別れが来るまで、僕はあなたのそばで黙りつづけます。」