あるのは ただ憎悪のみ-2
この言刃を使いはじめたころだ。
僕は自転車で、午後の住宅街を走っていた。
赤いランドセルを背負う、二人の女の子が前を歩いていた。
僕は彼女たちを追いこして走り去った。しかし追いこしまぎわに見た女の子の姿を思い出して、方向転換して彼女たちの前に戻ると、僕が目をとめた 左側の女の子目がけて言った。
「デブ!」
その一言を浴びた女の子の顔が忘れられない。大きく見開いた眼から、大粒の涙がボロボロとあふれてきた。
僕は自転車の向きをかえて走り去っていった。本当はもっと、あの女の子の泣きむせぶ姿を見ていたかった。そしてもう一人の女の子が(おそらく)彼女を慰める姿を……。
○●○
時おり、援助交際の女の子を買ってみる。
ネットなんか使うと跡が残るから、街を歩いてる「対面販売」の女の子に「直接交渉」してやる。
今日は、女子高生が買えた。昼下りのラブホテルに行っても、さして疑われないケバい服装だったけど、ふだんはマジメな学校生活やってるみたいな女だった。
「キミ、煙草吸えるのかな。これ、一箱どう?」
僕はベッドの上に座る彼女に、真新しい煙草の箱を手渡した。
「ありがと、一本吸っていい?」
彼女は煙草を取りだすと、火をつけて吸いはじめた。慣れてるように見えて、何か「慣れてる風を偽ってる」感じがした。
僕「……ダメだな。僕、キミとセックスできない。」
女「え、どうして?」
僕「別に金を返せとは言わないよ。キミのカラダに、キミのお母さんの霊がとり憑いてるもんでね。」
女「ママの霊? 何それ、ウケるな〜ママは生きてるよ。元気だよ。」
僕「いや、キミのお母さんが堕胎した赤ちゃんの霊が、キミにとり憑いているんだ!」
彼女の顔から笑みが消えた。
僕「……三人はいるようだな。」
女「……そんなの嘘よ。ママはそんな事するひとじゃない。」
僕「おいおい、キミだってお母さんの知らないこんな姿があるだろう。お母さんだって、キミの知らない面がいっぱいあるのさ。」
女「やめて! もうイヤ、私 出る!」
僕「待って、キミ もう一万円、持っていっときなさい。」
女「バカじゃないの?そんなのいらないわよ!」
僕「いや、これはキミのためのモノだ。このお金で赤ちゃんたちの供養をしなさい。でないとキミは これから、『ここぞ』という時に大コケをかます人生が続くぞ!」
彼女は紙幣を受け取って部屋から出て行った。
彼女にどのくらいのダメージが与えられたかな。
もとより俺には霊なんか見えやしない。彼女に言ったことは嘘ッパチさ。
ただ、イマドキの女には整形とか堕胎とかの『プチ手術』は日常的な話だから、僕が彼女に言ったことも、案外当たってるかも知れん。