010 殺らなきゃ殺られる・1-6
きゃ、とも、ひゃ、とも言える息が詰まったような悲鳴がした。ついに見付けてしまったのだ。野上雛子は、香草塔子の惨殺死体から二メートルほど手前で腰を抜かしていた。地面を通してこちらまで伝わってくるんじゃないかと言うほどに身体を震わしていた。
「な、道明寺」
「しっ、黙ってろ」
見てられない、と言うような声色で呼ばれたのを慌てて制した。
雛子のトレンドマークとも言うべきツインテールが激しく揺れていた。悲鳴のような息遣いが聞こえる。晶は揺れるツインテールを眺めながら、こんな時に去年の文化祭のことを思い出していた。クラスの出し物はありふれた喫茶店であったのだが、ただの喫茶店じゃ面白くないとの理由で話題のメイドカフェにしたのだ。確か、白百合美海や八木沼由絵辺りが言い出したことだ。女子は皆、手作りのメイドコスチュームで着飾り、髪型はツインテールにしていた。大東亜共和国ではあまり馴染みのない古い西洋風の衣装に、一際はしゃいでいたのが野上雛子だった。皆でお揃いにしたツインテールもたいそう気に入ったようで、以来彼女はいつもその髪型をしていた。野上雛子は些か流され易いと言うか、影響を受け易いところがあった。
六十秒ほどそうしていただろうか。過呼吸気味に息を乱していた雛子が、放り投げてしまった自分のデイパックを手繰り寄せ荒々しい手振りで抉じ開けると、両手を中に思い切り突っ込んだ。ひやり、と冷たいものが晶の背中を伝った。──まさか。いくら影響され易いと言っても、あんな自律神経が狂ったような状態で、そんな──まさか。
片手を地面に添えながら雛子は立ち上がった。むっちりとした脚がしゃくりを上げるように震えていたが、今し方発ったばかりの校舎へ向かって引き摺るように踵を返した。左腕には黒光りするなにかがあった。
「バカな! あいつ!」
晶は飛び出していた。
「ど、道明寺!」
一歩遅れて夏季も後に続く。
最悪のタイミングだ。そろそろ二分にもなろうかと言う頃。昇降口の扉が正に今開こうとしていた。後を追う晶たちの存在など気付かず、雛子は一目散に昇降口へ突っ走って行った。野上雛子の一つ後ろ、今正に姿を現そうとしているその人物は。最悪のタイミングだ。駄目だ、今は、駄目だ。朔也!
端麗な顔立ちが緊張で強張っていた。乃木坂朔也は、ただならぬ形相で迫り来る野上雛子の姿を捕らえると、驚愕のあまり目を見開いた。その手にはボウガンが握られていたのだ。
【残り:四十名】