010 殺らなきゃ殺られる・1-5
新垣夏季と合流しそろそろ二分も経とうかと言う頃。鬱蒼とした立木の影になっている昇降口に、明るい髪色のツインテールが動いた。
「おい道明寺、野上が出て来たぜ」
力強く頷き返す。野上雛子(女子十二番)だ。さながら女子の不良と言った部類で、だらしなく着崩した制服に今時流行りもしないルーズソックスと、付け睫を二重に重ねた分厚いメイクをしていた。教室でも同じような面々と一つの机を取り囲み、ことあるごとに化粧直しに勤しんでいた。
「野上には、声を掛けないんだよな?」
恐る恐ると言った様子で、夏季が言う。男子不良グループの面々は割とクラスに馴染んでいるし、悪い印象は少なくとも男子間ではあまり広がっていないのだが、女子不良グループの面々に関しては残念ながら、そうとも言えなかった。少なくとも男子生徒の間では。夏季の言い方には明らかに拒絶の色があった。無理もなかった。
「そりゃお前、仮に仲間になったとしても、あの子と上手くやれる自信があるか? 俺はないね」
「いや、良かった……てのも、ひどい話だけどな」
それは即ち、見捨てることと同意義であった。政府の思惑通りになりたくないと言いながらも、確実に、晶はクラスメイトに対して命の選別をしていた。ひどい話だ。
周囲を警戒しながら、ゆっくりとした動作で野上雛子は並木道を一歩一歩踏み込んでいた。暗闇に目が慣れ、金見雄大と香草塔子の遺体を発見してしまうのも時間の問題だ。怯えきった様子の雛子になんの手も差し伸べられないのは心苦しかったが、かと言って考えを改めることもしなかった。ひたすら、彼女が通り過ぎるのを見守った。