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Sincerely -エリカの餞-
【二次創作 その他小説】

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010 殺らなきゃ殺られる・1-3

 ところで金見雄大とは、どう言った人物だったろうか。所謂男子中間派とも言える面々と一緒にいることが多かった雄大は、それなりに晶と接する機会も多かったはずだ。例えば今隣にいる新垣夏季も中間派の所属だし、その人柄を知っているからこそ晶も声をかけたのだ。だが今にして思うと、比較的社交性のある面々はこの新垣夏季と、本堂空太、そして森下太一(男子十九番)の三人くらいのもので、金見雄大はかなり無口な人物だったように思う。晶と言葉を交わしたことはほんの数えるくらいしかないし、世間話なんてした記憶もない。ただ一度、下校途中の商店街で同じ制服の女子生徒と一緒にいるのを目撃したことがある。晶が挨拶がてら軽く手を振ると、ひどく狼狽えた様子で返事もそこそこに彼女の手を引いて店の中へ消えて行った。ぎくしゃくとした動作だった。その顔が火が出そうなほど真っ赤だったのを覚えている。あとで聞いた話だが、雄大が一緒にいたのは一学年下の彼女だったようだ。晶は自分が女たらしと称されているのを鼻にかけて、うぶだねー若いねーとひとりごちた。バカにしているわけではなくて、単純に微笑ましかった。
 晶は思い出したように支給武器の自動式拳銃、ブレン・テンを硬く握った。カチリと冷酷な音がした。デイパックからこれを探り当て銃弾を装填した時は、石のように硬く非情なまでに冷たかった拳銃は晶の体温によってすっかり熱を帯びていた。よほど強く握り締めていたのだろう。とにかく、認めたくなくとも間違いなく殺し合いは始まっていたのだ。政府の思惑通りに、最後の一人になるまで。しかしそのことに彼が絶望しているかと言えば、もちろんそうではなかった。ある意味、想定の範囲内。この国で普通に教育を受けていればこれ≠ヘ全ての中学三年生に等しく訪れる可能性であった。覚悟していたと言えばそんなことはないが、考えなかったわけではなかった。
 晶には希望があった。大人しく政府の言いなりになる気など端からなかった。自分は特別な人間である──物心ついた頃から、晶は半ば確信に近い形でそう自負していた。それは春霞のような曖昧な根拠のない確信だったが、年を重ねるにつれ濃く色付いていった。昔からなにをしても、人より上手く要領を掴めた。そして、一歩先を読むことが出来た。学んだことは苦労せずともすぐに吸収したし、すぐに理解出来た。わからない、と言う感覚がよくわからなかった。──アキちゃんは恐ろしい子だね。幼いながら知識をひけらかす晶を見て、そう言ったのは祖母だった。晶は祖母の蔑むような言い方に少なからずショックを受けた覚えがあるが、直ぐ様父親がフォローを入れてくれたのだ。晶、ばあさんの言葉は誉め言葉だ、お前は恐ろしく賢い子だ、俺の自慢の息子だ、だが晶、よく覚えておいで、決して過信してはいけないよ、晶、人より得るものが多いなら、努力を怠ってはいけないよ──普通に考えれば、足りない部分を補うためにも努力は必要だ。だが父親が言ったのは胡座をかくなと言う警告であり、現状に満足せず高みを目指せと言う激励でもあった。両親はあまり干渉しない教育方針だったが、晶はこの言葉だけは強く胸に刻んできた。そしてそのように生きてきた、つもりだ。
 とにかく、晶は自分が特別な能力を持つ人間であると信じていたし、自覚していた。故にプログラムに巻き込まれた場合のシュミレーションもおおよそしていたのだ。もちろん一筋縄ではいかないし、上手くいくとも限らない。だがとにかく憎たらしい政府の連中に一皮報いるためにも信用できる人材が、特に男手が必要だ。そのために危険を承知で分校内に留まっていたのだった。


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