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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(二)-5



「どうか、されましたか?」

 給仕係の夕子が、小さな声で訊いた。その問い掛けが、余りに唐突、且つ場違いに思えた伝一郎は、つい語気を荒げてしまった。

「なんで、そんな事を訊くんだ?」

 夕子は、伝一郎の声に圧倒され、答える声が、更に小さくなった。

「いえ。……お食事中、ずっと……難しい顔をなさってたので」
「えっ!?僕が、ずっと」
「は、はい。ひと口召し上がる毎に…」

 遅い朝食の間中、伝一郎は知らぬ間に眉を顰(ひそ)めていたらしい。直ぐに非礼な態度を詫び、再び食後のお茶を口に運んでいたが、暫くすると、再び顔が険しくなって来た。
 一年ぶりに口にした朝食なのだが、以前とは比較にならない程、美味しいと感じている自分に合点てが行かないのだ。
 今日の献立は、自家製のパンに牛の乳、ベーコンと言う塩漬け肉と玉子を焼いた物に、南瓜の冷たいスープ、葡萄が一房。普段、寄宿学校の画一的な朝食とは質、量共、比べる迄も無く豪勢であり、此れだけの物を食するのは、日本広しと言えども、ほんの一握りの人間だけだと理解出来る。
 しかし、幾ら豪勢な食事とは言え、大勢の仲間と語らいながら食べるのを日課とする伝一郎にとって、会話も無く食べる食事は、味気なさと侘しさを募らすばかりで、決して美味しい等と感じる事は無かったのだ。

(それなのに、何で今日に限って……)

 理由は唯一つ──。昨夜の夕食時、夕子を通じて此れ迄、大した会話もして来なかった女給逹と、初めて、話らしい話をしたのだ。
 会話が乏しければ、互いの思いは徐々に食い違いを生み、軈(やが)ては関係に軋轢が生じてしまう。現に今迄、伝一郎は女給の態度を快く思っていなかったし、女給逹も、如何様に接すれば良いのかを計りかねていた筈だ。
 ところが、昨夜、会話を交わした為だろうか、先程の食堂に出向いた際も、食堂番の亮子と重美が傍に近寄り、心を砕いて話掛けて来た。

(今迄は、やる事も無くて早く戻ってたけど、今年は少し、長居してみるのも良いかもな……)

 会話と言うのは、人と人との心を結び付ける。伝衛門への蟠(わだかま)りの為に、使用人にまで気を遣わせるのは些か大人気ない態度だと、伝一郎は自らの考えを改める事にした。
 この、心変わりも、夕子と言う存在有ればこそである。

「あれ?」

 部屋に戻ると、窓帷(カーテン)は既に開けられて、縁台へと続く窓の上部、小窓だけが解放されていた。
 不在の間、夕子がやったのだろう。

「夕子の言った通りだ……」

 窓から空を望むと、一面を鈍色の曇が低く垂れ込め、小さな雨を降らせている。硬山が、青白く輝いた翌日は雨が降ると断言していたが、見事に裏打ちされたと言う訳だ。


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