齋藤春宮の悩み 〜想い、花開く〜-1
五月某日、連休中。
紘平の部屋に、龍之介と秋葉の姿があった。
げんなりした様子の龍之介を尻目に、二人は指を卑猥な形に揺り動かしながら言葉を応酬している。
「いやだから、ここをこう……」
「いやそれよりも、こう……」
しばし視線を合わせた後、二人は同時に龍之介を見た。
『龍之介、どっちが正しいんだ?』
声をハモらせ、二人は問う。
「知るか」
物凄く投げやりに、龍之介は答えた。
――美弥繋がりで仲良くなった輝里と瀬里奈はまだしも、何故に秋葉と紘平までもが仲良くするのか、龍之介にはさっぱり分からない。
しかも話題といえば、必ず龍之介を巻き込んで恋人を悦ばせるテクニックについての情報交換である。
巻き込まれる方はたまったものではないと、龍之介は呆れていた。
「だ・か・らぁ……俺、瀬里奈相手じゃ未だに歯が立たないのよ。分かる?」
「俺も……どうすれば輝里が気持ち良くなれるのか、努力はしてるけど未だに分からない」
二人は情報交換に余念がない理由を、そう説明する。
必要なのはAVのテクニックでもハウツー本の情報でもなく、身近な人物が有する生の声なのだと。
で、一番身近で経験豊富な人物が龍之介だから、二人はしょっちゅう龍之介を巻き込んでは情報交換に励むのだ。
「女の感じる所なんて、人それぞれだろ。相談されたって困る」
龍之介が言うと、秋葉がすかさずツッこむ。
「いやそれがどこかって話よ」
ずるうっ、と龍之介はずっこけた。
「……当人に聞けよ」
秋葉は、辛辣な目で龍之介を見る。
「輝里に聞いて、答えてくれると思うか?」
いかにも初心で奥手そうな輝里の顔を思い出し、納得した龍之介は肩を落とした。
僅かに痒くなった二の腕をボリボリと掻きつつ、今度は紘平を見る。
「男のプライドがある」
無意味に胸を張り、紘平は答えた。
「捨てろそんなの。今すぐに」
すかさずツッこんでしまったが、紘平より上手な瀬里奈だから気付かれないよう徐々にテクニックを教え込んでいるのだろうなと、さらに二の腕を掻きながら龍之介は思う。
龍之介自身は美弥にテクニックを教えた事はなかったが……時々して貰っていた行為から察するに、自分のテクニックを真似ている部分はあった。
おそらくは、して貰って気持ちの良かった愛撫を行為に織り交ぜているのだろう。
「俺らがくっつくお膳立てした当人が、見捨てるような事を言うなよ」
その言葉に龍之介は、秋葉を見た。
「実際にくっつけたのは美弥だろ?僕ぁ、何もしてないだろうが」
秋葉は思わず、龍之介を小突く。
「別れ際にあんなモノをプレゼントしといて、お前はそんな事言うか?」
言われた龍之介は、返答に詰まった。
何やら興味をそそるエピソードに、紘平は身を乗り出す。
「何だ、何があった?」
秋葉は紘平を見て、ニヤリと笑った。
「いやこいつさぁ……」
そして、輝里と付き合うようになったきっかけとその時に勃発したトラブルについて語る。
「へぇ……」
聞き終えた紘平は、面白そうに龍之介を見た。
「くっつきそうなカップルに、そんなユニークなプレゼントとはね」
言われた龍之介は、無言で肩をすくめる。
「だろ?おかげで俺、輝里と一気にイッちゃったんだよなぁ」
秋葉の言葉に、紘平はぶっと吹いた。