齋藤春宮の悩み 〜想い、花開く〜-15
「……変な話よねぇ」
「……」
春宮は何も答えない……いや、答えられない。
「こういう事されて初めて、あなたが男だって意識してる。私、変でしょ?」
不思議そうな顔で、春宮は楓を見た。
「あ、でも……まだ『男』って意識しただけよ。『好き』だとはまだ……酷だけど」
思わず、春宮は破顔する。
「それでも……今までから比べれば、凄い進歩ですよ」
楓から離れると、春宮は微妙な顔をした。
「その……厚かましい話だと思うんですが……こんなひどい真似したけど……許して、くれますか?」
それを聞いた楓は、ふっと微笑む。
「どうしようかしら?」
許して貰える程、甘い事じゃない。
そういう意味にとった春宮は、当然だとは思いつつも肩を落とした。
「ね……本当に私が好き?」
楓の質問の意図が分からず、春宮はきょとんとした。
「その気持ち、利用させて」
楓はデスクから降りると春宮に抱き着き、唇を触れ合わせる。
それは、春宮には断る理由のない行為だった。
「ど……して……」
だが唇が離れると、問いがそこからこぼれ出る。
「確かめたかったの」
楓は、にこりと微笑んだ。
「ただ単に男に興奮してるのか、それとも君だから興奮してるのか……」
「……結果は?」
少年の問いに、楓は笑みを強くする。
「分かんない」
春宮は目を剥いた。
「だぁって、齋藤君はその両方な訳でしょ?」
剥いた目をすぅっと細め、春宮は楓の耳元に囁く。
「キスする口実が欲しいだけなら、そんな理由作らなくたっていくらでもしますよ」
「……!」
年下で可愛らしいという形容詞が似合う男の子が見せるセクシーな牡の顔に、楓は少し驚いた。
「お……おぉ?」
その顔に影響されてか、楓の頬が赤く染まる。
「おいやですか?」
「……さぁ?」
楓は、くすくす笑った。
「試してみないと分からないわね」
「じゃ、試しましょう」
言うなり春宮は、顔を傾けて楓と唇を重ねる。
楓は、それを受け入れた。
しばらくして、どちらからともなく唇を離す。
「嫌でした?」
春宮の問いに、楓は微笑んだ。
「嫌じゃないわ……むしろ、もっとして欲しいくらいに気持ちいいわね」
「じゃ、しましょうよ」
春宮は、楓を抱き締める。
楓は、抵抗しない。
「ただし……もうお試しはなしで」
「へっ!?」
硬直する楓に対し、春宮は続けた。
「宇月さんが俺の事を男として見始めたばっかりで、我が儘だとは思います。けど……けど俺、もう我慢できませんよ」
そこで楓は初めて、春宮の体の状態に気付く。
「お返事は……後でいいです。俺、今日は帰ります」
少し前屈みになった春宮は、家庭科室の出入口に向かって歩き出した。
「鍵、閉めて」
楓の声に、春宮は振り返る。
「楓、さ……」
デスクの上に座った楓は、制服を脱ぎ始めていた。
「体の相性、確かめあいましょう」
楓は、瞳を煌めかせる。
「気持ちを利用させてって、言ったわよね?」
小柄で華奢な肢体が、露になった。
「私、見た目から純情だと思われるけど……中身は、意外と残酷よ」
「今、それに気付きましたよ」
春宮は出入口に鍵を掛けると、楓の方を向く。
「残酷な事を言われても……俺は、楓さんの優しさを知っていますから」