葵の決意-5
久実が葵の家庭教師としてやってきた頃、すでに親子の仲は冷め始めていた。
彼の父親は中学に入って勉強が難しくなる頃だが、
自分は忙しくて勉強を見てやれないからと、
明日から家庭教師に勉強を見てもらえとだけ彼に伝えた。
葵は余計なお世話だと思いつつ、その頃はまだ素直に父親の話を受け入れた。
別に父親と一緒にいる時間が増えるわけではなかったので、
別にいいかと思うくらいだった。
そこでやって来た久実は、国立大学を目指す高校生で教え方も上手く、
すぐに葵の成績はトップクラスに躍り出た。
しかし、年頃の男女が狭い空間に二人きり。
葵は今ほど整った顔立ちではなかったが、これからいい男に成長するであろう
貫禄が十分にあり、すでに身長は高い方だった。
久実は美人というよりも愛嬌のある可愛らしい雰囲気で、
学校でも男子に人気がありそうだった。
そのうち二人は勉強以外の事も話し出すようになる。
単純なことだが好きな歌手が一緒だとか、
好きな映画や読んでいる漫画や本が同じことが多く、良く気が合った。
葵が久実を女として意識し始めるようになったのは、
彼女が家庭教師を初めて2、3ヶ月経った11月頃だった。