元、家庭教師-5
すると葵が何かを決心して奈々子に打ち明けようと、
真剣なまなざしで奈々子の瞳を見つめ返してきた。
どうしたのかな?と奈々子が思っていると、
葵は何も言わずにソファーに座ったまま奈々子をギュッと強く抱きしめた。
奈々子も葵に腕をまわし抱きしめ返すが、ふと葵の手が震えていることに気がついた。
「・・・葵君?」
いつもと何かが違う葵に気がついた奈々子は心配になる。どうしたんだろう?
葵君、何かあったのかな?
あんまり私の職場に来ないのに、会いに来たって事は何か相談でもあるのかな?
どうしよう、なんて声をかけたらいい?
奈々子がそう思っていると、葵は抱きしめていた腕を緩めて奈々子にキスをしてきた。
それはいつもの甘いキスではなく
なんとなくせつなさが込み上げてくるようなものだった。
結局その日は葵から何も聞かされることなく、奈々子を家まで送ってくれた。
奈々子はそんな彼に
「何か悩んでいることがあったらいつでも言ってね。」
という事しか言えなかった。