覚醒-2
俺を取り巻いていた一人の男がその女性の所に言って、小声で何やら伝えるとその女性は頷いて立ち上がった。
「私は柊(ひいらぎ)このはというの。催眠協会の理事をやってるわ」
このは女史は近づいて来ると指先を俺の両目の間に突きつけた。
「はい、この指先を見る。力がす〜と抜けて立てなくなり、椅子に座ります」
なんとあっという間にかけられてしまった。
「目を閉じると十数える間に深い催眠に入ります。一、二、三……九、十。
さあ、あなたは私の問に正直に答えて下さい。
あなたは催眠にかけられて何を望みますか?」
俺は正直に答えた。
「自分で催眠にかけたり解いたりできるようになりたい」
「そうね、他者催眠に頼れば依存性が高まるし、術者の都合の良いようにコントロールされるから、私もあなたの考えに賛成よ。
それでは自分で自分をコントロールする自己催眠をかけられるようにしてあげます。
何か人の知らない短いキーワードを思い浮かべて下さい。それがあなたが催眠状態に入るためのパスワードの代わりになります」
俺は咄嗟に『ピーピング』という言葉を思い浮かべた。
ただ単に覗きという意味だ。
「思い浮かべましたか? それではたった今からその言葉を心の中で三回唱えればあなたは一番深い催眠状態になり、自分の望む催眠状態になります。
水が最上級の酒になれと望めば、そうなりますし、水道水で酔うこともできます。
催眠から覚めたいときはキーワードを逆に心の中で三回唱えれば良いのです」
俺は『ピーピング、ピーピング、ピーピング』と心の中で唱えてから『周りの人間が真っ裸に見える』と願った。
すると目の前のこのは女史がヌードになって立っていた。
なんと、三十代の美人女史はつるまんだった。ぱ……パイパン?
小学生でもあるまいし、陰毛が生えていないとは……?
「さあ、もうあなたは自分で催眠を解くことができます。
これからは自分が望まないかぎり他人から催眠にかけられることもないし、いつでも自分で解くことができます。
やってごらんなさい」
俺は心の中で『グンピーピ、グンピーピ、グンピーピ』三回唱えた。
すると女史は最初に着ていたベージュ色のツーピースの姿に戻っていた。
「これで終わりです。何か質問がありますか?」
俺はこのは女史にこっそり訊いた。
「さっきかけられた催眠で、全員が裸に見えるって奴、あれは本当の裸が見えているんですか?」
「うふふ……そんな訳ないでしょう。あくまでもそれは被験者のあなた本人の想像力から見えた幻覚ですよ。
催眠をかけられたからといって、透視能力が授かった訳じゃないですから」
「それじゃあ、あんたのあそこに毛が生えてないように見えたのも、俺が勝手に想像したんですか?
大人のあんたにそんな想像をするなんて、俺自身も思いつきませんでしたよ」
これにはこのは女子が顔色を変えて、俺の手を引っ張って別室に連れて行った。
「あなたは誰かから私の身体のことを教えて貰ったの?」
「いや、あんたに会ったのも今が初めてだし、前もって聞くことなんてできるわけもない。
ということは、本当に恥毛が生えていないのか?」
「しー、その前に他にも私の身体の特徴を言えるかしら?」
俺は即催眠状態になり、裸の彼女を観察した。