9.サイド・ストーリー『海山和代の初体験』-1
「じょ、冗談じゃない!」
ケンジはピンクの花柄のシーツの上で身体を起こし、大声を出した。
「な、なんで俺が海山和代と」
「いや、あたし前から思ってたんだよね」
ミカが仰向けになったまま両腕を枕にして言った。
「あたしたちのセックス・セラピーの仕事をやる上で海山和代は重要なスタッフの一人。でもあいつはまだ男性経験がない処女なわけでしょ?」
「そうだけど……」
「セックスの時の身体の反応とか、その時の気持ちとかって、やっぱり経験がなきゃわかんないことが多いじゃない」
「まあな」
「あいつは医者だから、解剖学的なことは熟知してても、実際のエッチのことは何もわかってないわけでしょ? だからちゃんと経験した上でクライアントを診察したり助言したりするべきだと思うわけよ」
「そりゃそうだけどさ……」
ケンジはあからさまに困った顔をした。
「で、でもなんで俺がその相手にならなきゃいけないんだよ」
ミカは横目でケンジを見た。
「だって、あいつには彼氏なんかいないじゃない」
「いないのか?」
「いないに決まってるでしょ。あの性格じゃ無理だと思うよ」
「わからないぞ、ああいうのが好きっていう男がいるかもしれないじゃないか」
「そうだといいんだけどね」
ミカは笑いながら両手を伸ばしてケンジを求めた。
ケンジはミカに覆い被さり、そっとキスをした。
「もう一回?」
ミカは頬を染めてコクンとうなずいた。
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