4.セックス・セラピスト-1
「どや、ケンジ、新しいプールは」
「ああ、快適だよ。照明も増えて明るくなったし、高精度カメラも設置したんだ」
海棠ケンジ(38)とケネス・シンプソン(39)はシンチョコの閉店後、店内の喫茶スペースで語らっていた。
「カメラ?」
「プールの真上から撮るカメラでさ、大会の時の判定にも役立つし、万一人が沈んでいても、すぐにわかるようになってる」
「なるほどな。安全管理。大事なこっちゃな」
ケネスはコーヒーのカップを口に運んだ。
「しかしおまえんとこ、えらい立派になりよったな」
「お陰さんでな」
ケンジは軽く肩をすくめてカップに手を掛けた。
「スイミングプールのドームの隣にテナントの入った三階建てのアミューズメント・プラザとかいう施設があんねやろ? レストランつきの」
「ああ、スポーツや健康をテーマにしてるから、それ系のショップにも入ってもらってる」
「三階に大浴場があるんやて? 流行っとるんか?」
「まだ開業したばかりだけどな。とりあえずいつも賑やかだ。小さい子供連れの家族が多いかな。おまえも早く家族連れて遊びに来いよ」
「ここんとこ忙しゅうてな」
ケネスは頭を掻いた。
「裏手のホテルも完成したんやろ?」
「そうだな。ホテルは来週開業する予定だ」
「町の大富豪やんか」
「いやらしい言い方するな」
ケンジは笑ってコーヒーを一口飲んだ。
「これでやっと落ち着けるよ。工事の間の約一年間、スイミングスクールは市の屋内プールを借りてたからな」
「あそこは狭いからな。スクールのカリキュラムをこなすのん、大変やったやろ」
「時間を短縮したり人数を調整したり、けっこう苦労したね」
「今度は前よりコースも増えて、生徒も増やせるんとちゃうか? サブプールもあんねやろ?」
「むやみに募集してもしょうがないよ。身の丈で続けるさ」
ケンジはテーブルのチョコレートに手を伸ばした。
「そう言やケンジ、おまえとミカ姉の妖しげなセラピストとしての顔、なかなか評判やで」
「妖しげとは何だ。ちゃんと資格があるんだぞ」
ケンジは少し赤面して反論した。
ケネスはにやにや笑いながら言った。
「いやいや、名称からしてなかなか妖しげやんか。『セックス・セラピスト』」
「うるさい」