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アダルトビデオの向こう側
【熟女/人妻 官能小説】

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1.自分との決別-6

 香代はスマホのカバーを閉じて、リカに向き直った。
「この事務所に雇われてる女優さんって何人ぐらいいるんですか?」
「半年前に同居人が出てってからあたいを含めて三人だったけど、あんたが来たからまた四人」
「みんなこのアパートに住んでるの?」
「そうよ。でもここ以外にも事務所所有のアパートがあるの」
「そんなに羽振りがいいんですね、ここの事務所」
「考えてみれば変よね。女優は四人しかいないのにそんなに人が住むところがあるなんてね」
「今は空き部屋とか……」
「ううん。あたい一度そのアパートを見に行ったことがあるけど、確かに誰か住んでたっぽい。ベランダにエッチな下着とかが干してあったもん。でもここより狭そうでボロっちいの」
「女優じゃなければ誰が住んでるのかしら……」
「さあね」リカは首をすくめた。
「他にも撮影で使うマンションがまた別の所にあるわ。たぶんあんたの撮影でも使われるはずよ」

 それから香代は、リカから黒田太一が代表を務めるアダルト・ビデオのプロダクション『Pinky Madam』のことについて聞いた。主に主婦の寝取られ物を中心に制作しているAVメーカー数社と繋がりがあり、リカも『若奥様リカ』シリーズの作品の主役だということだった。相手役の男優はメーカーが制作する作品によって変わり、仕事は多い時で週に二回程度。少なくても月に三度ほどの撮影はあるらしかった。
 制作メーカーから一作品女優一人に対して支払われる出演料はその都度プロダクション『Pinky Madam』に天引きされて残りは現金で手渡し。仕事がない時は完全にフリーだが、役作りのために事務所指定の美容室やエステサロンへ通うことは欠かすなと言われた。

 香代は、義父や息子将太から姿を隠すため、リカに頼んでその日のうちに美容室へ連れて行ってもらった。そして肩まであった髪をばっさり切り落とし、赤みの強い色に染めた。アパートに戻ると自分の部屋でメイク道具を広げ、これもリカに指南してもらいながら、いかにも水商売風の派手なメイクを施していった。
「うん、いいんじゃない? ここに来た時とはもう別人だわ。ますます若く見える。悔しいな、何だか」
 リカは楽しそうに言った。
 変わり果てた鏡の中の自分の顔をじっと見つめながら、その時香代は、今までの自分をしばらくの間捨てることへの決意をせざるを得なかった。

 メイクの道具を片付けながらリカが言った。
「そうそう、あたい明日撮影日なんだ」
「そうなんですか?」
 リカはぷっと噴き出した。「あのさ、その顔で敬語使わないでくれる? ギャップが大きすぎて笑っちゃう」
「そ、そう?」
 香代はばつが悪そうに口をゆがめた。
「当分ここで二人で暮らすんだし。もっと打ち解けようよ、ね、香代さん」
 リカはそう言って香代の手を取った。
 香代は安心したように小さくため息をついた。
「香代さんに見学させろ、って社長からメールがあった。さっき」
「見学?」
「そ。ここのリビングで撮るの」
 香代は納得した。アパートの一室にしては無駄に広く、わざとらしい飾り気の多いリビングだな、と思っていたからだ。




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