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アダルトビデオの向こう側
【熟女/人妻 官能小説】

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1.自分との決別-4

 香代はその三日後、息子の将太や義父の建蔵に黙って最小限の荷物を旅行用バッグに詰め、密かに家を出た。
 後で詳しい手紙を書くと決めていたので、香代は便せんにひと言『都合で二、三日家を空けます。心配しないで下さい。また改めてきちんと説明の手紙を送ります』としたため、玄関の、いつも香代が庭で切った花を飾っていた一輪挿しの底に挟んだ。そして静かに玄関の引き戸を閉めた。軽やかな音と振動が香代の耳と手にいつまでも残った。
 それから駅で待ち合わせをしていた林と合流し、彼の案内でその日の内に黒田が指定したアパートに入ることになった。

 見るからに安普請のその部屋には、すでに女が一人住んでいた。
「香代さんね。入って」
 すっぴんで眉を剃り落とした顔のまま、その女は無愛想に言った。
 一緒に来た林が玄関先で香代に言った。
「何かあったら私に連絡を。これからのことはこいつにいろいろ教えてもらって下さい」
 そしてバッグから封筒を取り出し、香代に渡した。
「これは当面の生活費。5万入っています。仕事が入るまではこれで凌いで下さい」
「はい。わかりました」
 帰りかけた林は香代に向き直った。「そうそう、ご家族への手紙を書かれたら、私に預けて下さい。責任持って届けますから」
 そして林はあっさり背を向けてそこを離れた。

 戸惑いながら香代は靴を脱ぎ、部屋に入った。そのアパートは2LDKの広さで、玄関を入ったところに意外に広いキッチン、その脇にビジネスホテル仕様のバスルーム。キッチンの背後に一つ妙に立派なノブのついたドア。その横から奥に伸びる狭い廊下に沿って和室が二部屋並んでいた。案内された手前の六畳が香代の部屋だった。襖を開けると少しかび臭い匂いがした。窓はなくタンスが一棹と古びた三面鏡が隅に置かれていた。

「押し入れに衣装とか化粧道具とか入ってるから」
 同居の女が、缶ビールを片手に香代の部屋の入り口の柱に寄りかかったまま言った。
「それから撮影に必要ないろいろも」
 そして彼女は肩をすくめた。
「あたいリカ。よろしくね」

 香代は持ってきたバッグを畳の上に置いて、隣のリカの部屋との仕切りになっている押し入れを開けた。布団がなぜか二組、そして女性警察官と薄いピンク色の看護師のユニフォームがハンガーに吊されていた。また三段の衣装ケースがあって、その中にはロープや鞭、鎖、首輪、アイマスク、コードの巻かれた小さなバイブレーター、総スパンコールのブラジャーや黒いフェイクレザーの極小Tバックの下着など、およそ今まで香代が使ったことはおろか触ったことすらない怪しげなものが雑然と放り込まれていた。
 小さなめまいを感じて、香代は押し入れの襖を閉めた。その時部屋の外でリカの声がした。
「香代さん、ちょっと来て」


 そのリビングは洋室造りだった。キッチンから入る化粧ガラスがはめ込まれたドア以外に出入りするところはなかった。派手なピンクのカーペットが敷かれ、畳敷きの香代の部屋の内装と比べて極端に不釣り合いな豪華な二人掛けのソファが向かい合って二客、白いスチール製のセンターテーブルを挟んで置かれている。妙にスペースの多いその部屋は香代の部屋の約二倍程の広さ。壁にははめ殺しのダミーの窓がついていて、花柄のカーテンが下げられ、赤いタッセルで両端に束ねられていた。部屋の入り口に二つ並んだスイッチの一つは、その窓の奥に灯りをつけるためのもので、消せば夜、灯せば昼間、という演出ができるようにしてあるのだった。その窓の反対側には、これは本物の薄型テレビが黒いキャビネットの上に置かれている。

 香代とリカは向かい合ってソファに座った。
「質問して」
 リカが言った。
「え?」香代は小さな声で応えた。
「いろいろ訊きたいことがあるんでしょ? 質問しなよ」
 リカは手に持った新しい缶ビールのプルタブを起こした。プシュッという耳障りな音がした。
「何からお訊きすればいいのか……」
 香代はうつむいた。
「ま、わからないでもないわね。いきなりな話だったんでしょ?」
 香代は小さくうなずいた。
「誰だってこんな仕事やりたかないわよ。あたいだって」
 リカはビールをごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
「でも、収入はいいわよ。お金に困ってるんだったら風俗よりも割がいいかもね」
「そう……ですか」
「幾つなの? 歳」
「35。夏で36になります」
 へえ、と高い声を出してリカは身を乗り出した。
「ほんとに? そんなに歳くってるんだ。あたいより上じゃない」
「リカさんは、お幾つなんですか?」
「あたいはまだ29だよ。てっきりあたいより年下かと思ってた」
 リカは目を丸くしたままビールの缶を口に持っていった。


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