〜 美術その3 〜-3
4つ目で登場したのは『木彫り』です。 学園ではカツラの一木彫りに取り組んでいて、先輩の胸像も一辺50センチもあるカツラの立方体から彫りだしたものでした。 寄木造りも不可能じゃないとは思いますが、作品の先例はないそうです。
作成手順としては、木表を正面において、筆でデッサンを加えます。 大きく削る時は鋸(のこぎり)を使い、削る段に入ってからは『丸のみ』『平のみ』を木槌で打ちこみ、調整は彫刻刀で行います。 場合によっては、仕上げにサンドペーパーや金鑢(かなやすり)をかけることもあります。
先輩の作品は、さっきに続いて豊満な胸がモチーフでした。 脇をキュッと締め、両の二の腕で乳房を左右から圧迫し、寄せて上げている構図です。 無理に盛り上がった双乳の間には、まさに谷間というべき溝。 単に寄せるだけなら溝ができるだけです。 けれども先輩の像では寄せてからグイッと上げているために、溝自体があがっていて、ワインを注げば並々と受け止められそうな立派な谷間に仕上がっていました。 素材が醸しだす温もりのせいか、これまで見せて貰ったどのおっぱいよりも、柔らかそうに見えました。
像は残り2つです。 続いては掌に収まるサイズの石像でした。 人工大理石から削りだした、ツルツルでピカピカのおっぱいです。
まず、20センチ四方の人工大理石から、のこぎりとヤスリで大きい面を取り、彫刻刀とヤスリで形をつくります。 そうしておいてから水中に浸し、耐水ペーパーで磨いてからワックスをかけます。 すると本物の大理石の艶、光沢、質感を伴った石彫が完成するそうです。
これまで『おっぱいの全貌』を象った像ばかりでしたが、今度は『乳房の先端』を切り取った像でした。 つまり、乳首と乳輪のアップです。 つるつるの乳輪の中央から、細い線だらけでポツポツもある乳首が飛び出していました。 乳輪の直径と乳首の長さが絶妙で、先輩から感想を求められた時に思わず『オシャブリみたいで吸いたくなります』と答えちゃいました。 『その年齢でオシャブリはないよ〜』と【B29番】先輩に笑われてしまい恥ずかしかったですが、それくらい綺麗な乳首でした。
最後は『平面に立体を張り付けた像』、即ち『浮彫(レリーフ)』です。 板に木片を打ちこみ、その上から粘土を貼りつけて剥がれないようにします。 続いて釘や箆(へら)で輪郭をとり、更に粘土を上付けします。 いかにして限られた粘土の厚みの中で、立体感と奥行、空間を感じさせるかがポイントだと伺いました。
構図は学園の体育館で行われる『Cグループ生の集会』を、檀上から見下ろしたものでした。 たくさんの生徒が腰を落とし、がに股で並んでいます。 それぞれの乳房、乳首は大きさも形もまちまちです。 ただし生徒は乳房の下に手を当てて揺すっているため、ちゃんと全員の乳首が一目瞭然でした。 集会の後ろの方にいる生徒は乳首をヘラによる点表す一方、前の方にいる生徒は盛った粘土で表すなど、遠近感もしっかり出ています。 写真とまではいきませんが、彫り物としてはとっても写実的な作品でした。
……。
「――これで全部なんですけど〜どうでしょう〜参考になりましたか〜?」
レリーフをしまってから、先輩が私の顔を覗きます。
「はいっ、ありがとうございました!」
私は大きく頷いてみせます。 実際の所、どういう作品を作ればいいのか、イメージをもつ意味ではすごく参考になりました。 けれども『理想の胸像』がどんなものなのかは、最後まで掴めませんでした。 だって、大きさ、形、構図、品性、動き、色艶――先輩の作品のおっぱい達に、共通点なんてありません。 如いていえば、どのおっぱいも『自然体』だったくらいでしょうか。 変に恰好をつけてないというか、おっぱいを物扱いしているというか、表現するのが難しいんですが、そんな形式が共通しているような気はします。 かといって『自然体』が『理想』だなんて、そんな安直な展開なワケはありませんし……。
まあ、どんなおっぱいを作ればいいかは、部屋に戻ってからゆっくり考えることにします。 いつから彫像が始まるかしりませんが、まだまだ先のことでしょうし、それまでにはアイデアの1つや2つは思いつくでしょう。 もし何にも浮かばなければ、【B2番】先輩のアイデアを真似していれば、何とかなりそうな気がします。
「あとは〜ダメ出しされてもめげないで〜いっぱい作るといいですよ〜」
「はいっ、がんばります!」
ニッコリほほ笑む【B2番】先輩に、改めて深々と頭を下げました。 謂われなくても頑張るんですけど、こうやって励まして貰えるなら、それはそれで素直に喜ぶべきですよね。 可愛げがある方が、後々得なことが多いでしょうし。 全教科で成績の上積みをつくるためにも、全力で取り組む気持ちは嘘っこなしなつもりです。