愛おしい彼-6
「今日は楽しかったねぇー。」
「えぇ、今度は何処に行こうか?」
夕暮れとなり、同じく市民プールを後にする人たちで賑わう。
「動物園何てどう?」
「えー何か子供っぽい。」
まさか風馬君がそれを言うとは。
「風馬君が小動物とお話しする所見てみたい。」
「…え?」
兎やフクロウとまるで同士のように会話する所を想像しただけでまた…。
「何処でも良いよ、君と一緒なら。」
「そう?でも君の行きたい所で良いよ。」
「じゃー動物園かな、猿山何て楽しいよねうきー♪」
あぁ、可愛い…もう食べちゃいたい💛
ひょっとしてワザと?私を愉しませる為に。
「あっ!大事な事忘れてた!君って美術部だもんね、じゃー美術館だ。」
「……美術部、そうだねまぁ絵は好きだけど観に行く程では。」
美術部、と聞いて少し元気をなくす。
「どうしたの?」
「あーいや、ちょっと稲葉さんの事思い出して。」
稲葉さん、私が彼と付き合ったが為に深く傷ついた人。
「私のせいね、私が彼女の事、しっかり忘れていなければ…。」
「何言ってるの?君はただ…、むしろ僕のせいだよ、僕がちゃんと稲葉さんに話しておけば、あんな騒動は起きなかったのに。」
「風馬君。」
可愛くて、でも人としてとっても優しくてそれでいていざという時にしっかりしていて。
彼のその横顔はとても凛々しく見えて。
周りにバカと思われても構わない俗にいう「彼氏の自慢話ばかりする女」と呆れられても構わない…。
こんなにも心優しくてしっかりした素晴らしい人間、他に居ない!
「どうしたの?…あ、稲葉さんの事ならもう気にしなくていいからね、あの後彼女退部
したみたいなんだ。」
「えっ?」
「どうやら僕の事が気になってしまうようで、何だか気の毒だよ…。」
「…でも彼女にだって非はあるでしょう。」
「そうだけど…でも。」
「でも?」
「幾らあんな事しでかした人とはいえ、一時は僕と共に絵を描いた仲だ、僕が殺人犯だってクラスの子に苛められた時だって勇気を振り絞って僕を全力で庇ってくれたんだ。」
「風馬、君。」
「だから時々話しかけてるんだ、勿論元気はないし「何の用?」とか言われるけど。」
「……。」
「僕は彼女にもまた幸せなって欲しいんだ、願わくば僕何かよりもっと良い彼氏を見つけてまた元気な顔がみたいなぁーって。」
「皆の事、守ろうとしてるんだね。」
「まぁ、でも僕ってばカナヅチだし、いざって時君を助けれないかもと思って。」
ひょっとして今日プールで特訓したのはその為?そりゃー私が川に溺れる事何て早々ないんでしょうけど、でもプールに行こうって聞いた時後になって苦手克服して少しでも私の為になれたら…、そう思って苦手なプールに行こうとあんなにも精一杯に泳いで。
私の為にそこまでしてくれて、私だけじゃない。彼にとって憎くて仕方なかった恋敵の
佐伯君とも仲良しになり、この前も佐伯君のお父さんの居るあの家の前で自分の事のように佐伯君の不自由な家庭に苦痛を感じ、いつでも電話してよって言ってくれて、稲葉さん
にも進んで話しかけて。
「僕ってば甘いんだよね、落ち込んでる人とか見ると自分まで落ち込んで…。」
「そんな、そんな事ないよ、君は本当に素晴らしい人だよっ!」
興奮して肩を揺らす、すると首から痛みが走り苦痛の表情を浮かべる。
私ったらウォータースライダーの時、本気で背中を押してしまって、派手に水にダイビングしてしまい、あの時ちょっと図々しいなぁーと思い、ほんの軽い冗談で押したら。
「…もし僕が素晴らしい人間だったならそれはきっと君のお陰だね。」
「そんな、私は別に。」
彼は私の手を握り、バス停まで歩き、それからすぐにバスが来て、椅子に座り、数分も
しなう内に彼は眠りにつく。
今日は慣れない特訓で疲れたんでしょうね、私の為に。
その寝顔は本当に可愛く愛おしい、きっと彼が居なくなったら私どうかしそうだ。
私はその天使のような寝顔にキスをする。
本当に今日は彼のお陰で楽しい一日を過ごせた。
けどそんな彼との幸せな日々は長続きはしなかった…。
私の家、青果店。
その建物をじっと見つめる一人の女性。その人は40代くらいで私と顔が似ている。
「っ!あれは…若菜?」
「若葉…、ようやく。」
次回、37話に続く。