〈狂育〉-3
『……あ?なんだこのガキ!?』
「ッ……!!!」
亜季の期待は一瞬で砕かれた。
ドアの向こうには白いジャージを着た若い男達が屯しており、何が面白くないのかいきなり怒鳴るような声をあげて迫ってきた。
「キャッ!?う…ぐぅッ!」
その太い腕が伸びたと思った瞬間、亜季は側頭部に鋭い痛みを感じ、悲鳴をあげる間もなく景色はグルリと回って背中を打ち付けて噎せた。
眼前には囲むように男達の顔が並び、皆が皆、苦虫を噛み潰したような表情で睨んでくる。
自分は床に引き倒されたのだと気付いた時には腹に足を乗せられており、自慢のツインテールも踏み躙られて男達の足元に押し付けられてしまっていた。
『こんな所で何してる?ガキがうろちょろするトコじゃねえぞ?』
『……なんか言えよ?ほら、なんか言ってみろよ……ナメてんのかコラ!』
「ひ…ふひ……?」
何もかもが急展開で亜季の思考はついていけず、とにかく怒鳴り声と顔が怖くて言葉すら出てこない。
やがて何やら怒鳴られたかと思うといきなりツインテールを引っ張られ、力ずくで無理矢理に立たされた。
『なんだコイツ、ただのバカだぜ。このアホ面一発ぶん殴りゃあバカが直るかなあ?』
『お〜、そりゃあナイスアイデアだ。そうだ、殴るついでに誰が一番遠くまでブッ飛ばせるか勝負すっか?』
『それなら蹴りも有りにしようぜ?こんなちっこいガキなら、カンフー映画のザコみてえに派手にブッ飛ぶだろうぜえ?』
「………ッ!!!」
暴力的な遊戯の“的”にしようという提案は、冷酷な嘲りの中で認められた。
怖くて逃げ出したくても手も足も動かず、亜季は男に羽交い締めにされて宙に浮いた。
「痛いぃッ!!いッ…痛……」
頭髪を引っ張られるがままに立ち上がらされ、左右に立った男二人に両腕を捻りながら掴まれた。
腰が抜けたように両脚から力が失せていたが、その小さな身体は持ち上げられるように抱えられているので、亜季の上体は棒立ちと変わらない。
『へへ〜…この可愛い顔も一発でスクラップかあ…?』
「ッ………!!」
もう悲鳴すら出ない……男がこれ見よがしに突き出した握り拳は、傍目にもハンマーのようにゴツゴツしている代物で、こんな物で殴られたら骨折などでは済まないとさえ思えた……。