〈狂育〉-26
「グズッ…う…やだ…ズズズ…お家帰る……」
性懲りもなく、亜季は駄々を捏ねた。
だが、長髪男はそれを否定はしなかった。
『そんな汚い身体のままで帰るつもりかい?お風呂で洗ってあげるから一緒に行こうよ?』
全裸で糞尿塗れになった亜季をお姫様抱っこの形で抱き抱えようとすると、亜季はその腕を振り払うようにして抗った。
涙と鼻水でグチャグチャな顔をした亜季は、欲しいオモチャを強請る子供のように床に踞り、上目遣いで長髪男を見た。
「こ、ここから出たくないもん…ヒック!あの怖い人が居るから……ひぐッ!ひふ…ッ…怖いのやだもん……」
ドアの外の世界に恐怖心を植え付けるという謀は、どうやら効果抜群だったようだ。
まるで幼児のような怖がりっぷりは、もしかしたら幼児退行現象が起きているのかもしれなかったが、それなら何の不都合もない。
長髪男は亜季に人間的な成長を望んではいないのだし、家畜か愛玩動物へと堕落する、いわば《退化》を望んでいるのだから。
『だ・か・ら…ウンチ塗れのままで帰るつもりかって言ってるんだよ……そのまんまで帰したりしたら、愛お姉ちゃんに僕が叱られるだろう?』
「えぐっ!ぶ…ひう…!」
長髪男は強引に亜季の背中に腕を回すと、荷物でも扱うようにして抱き上げた。
ぷ〜ん……と、糞尿の悪臭を漂わせている亜季は腕の中で小さく震えながら、両手で泣き顔を覆って鼻水を啜っている。
別に可哀想とも思わない。
亜季の恐怖心に気遣う必要など無いのだし、そんなものに時間を割くつもりは毛頭なかった。
『さあ、行くよ。怖くて我慢出来なくなったら、お兄ちゃんにしがみついてイイんだからね?』
やや面倒くさそうな口調で労りの言葉を吐くと、長髪男は監禁部屋を後にして廊下に出た。
前園姉妹を、いや、他にも監禁しているであろう少女達が逃げ出さないようにと見張っているジャージの男達が駆け寄り、一斉に亜季の回りを取り囲む。
見えずとも感じる多勢による圧力の気配に、無意識のまま亜季は長髪男に抱きついた。
『おいおい、なんだこのガキ、クソ漏らしてやがるぜ?』
『ケツの拭き方も知らねえのかよ?やっぱりバカだぜコイツ』
『テメエ臭えんだよ!ブン殴ってグチャグチャにしてトイレに流してやっからコッチ来いよコラァ!』
髪や足が掴まれ、亜季は引きずり落とされそうになる。
だが、長髪男は決して離すまいと抱き締めているし、亜季も離れまいと懸命にしがみつく。