〜 情報その6 〜-1
〜 情報その6・振り返って 〜
「どうです? 授業でどんなことするか、イメージ浮かんだですか?」
くるり。 後ろを振り向く【B22番】先輩。
「あの、は、はい、出来ました!」
慌てて返事をします。
「だいたいこんな感じです。 見るだけなら簡単そうでも、いざ作り始めたらまあまあ大変で、上手くいかないことも多いと思います。 まあ、あとは自分でアレコレやってみるといいです。 こういうのは習うより慣れろ、です」
「はい!」
「久しぶりにモニターを見っぱなしで、ににもちょっぴり疲れました。 にっく、後片付けお願いしていいです?」
赤らんだ瞼を擦り、後ろを顧みる【B22番】先輩。 確かに目許が厚ぼったくて、疲れているように見受けます。
「おっけー。 先に帰っていいよ」
「ありがとです。 じゃ、おやすみです。 2人とも頑張って」
「「はい! がんばります!!」」
手をひらひらさせて出ていく【B22番】先輩に、私たちは揃って頭を下げました。 何をどう頑張ればいいかはさて置き、ここで曖昧な返事をしても意味はありません。 先輩方が与えてくれた材料を元に、自分のベストを尽くすだけですし。
「それじゃパソコンの電源を落して、私たちも帰るとしますか。 2人はいつも通り部屋の掃除ね」
鷹揚にパソコンの前に座った【B29番】先輩に、
「あの……1ついいですか?」
と、ここでオズオズと22番さんが手を挙げました。
「ん? どうかした?」
気づいた【B29番】先輩が身を乗り出します。
「さっき見せて頂いたHPは、情報量が物凄くて驚きました。 文献や資料とか、何かを参考にして作ったんでしょうか? それともご自分の知識だけで組み立てたんですか?」
「あ〜、いい所に気づいてるじゃん。 確かにそれは知っときたい所だね。 資料っていうか、旧世紀の情報をね、まとめたり解釈し直してからコンテンツにしてるんだ」
組んだ手の甲に顎をのせる【B29番】先輩。
「私もそこまでよく分かってないんだけど、旧世紀にはパソコンでアクセスできる情報共有スペースがあってさ、色んな人が自分の知識を載せてたんだ。 正しい知識もあれば、嘘もある。 とにかく膨大な量の知識だよ。 言葉だって今みたいに1通りじゃなくて、英語、独逸語、中国語とか、今じゃ使わなくなった言葉が溢れてる。 自動翻訳機能があるから言葉の壁は簡単に超えられるんだけど、それでも世界中の人が自分の言葉を記録してたみたいで、半端ない。 えーっと、お前たちも知ってるんじゃないの、ほら、なんだっけ……アレだよアレ、幼年学校で習うヤツ」
【B29番】先輩は眉間に皺をよせ、掌で頬を挟んでいます。
「『ネット』でしょうか?」
「そう、それ! それみたいなモンがさ、旧世紀にもあったわけよ」
「私たちが使っていたネットとは違うんですか」
「パッと見は同じでも、全然違うんだコレが。 私にしたら幼年学校なんて昔だからさ、よく覚えてないんだけど……幼年学校のネットって、誰でもアップできたっけ?」
「出来ないです。 学校のサーバーに保管された情報を検索したり、配信された動画を見たり、それだけです」
「さっきもいったけど、旧世紀のネットは誰でもアップできたんだって。 それも制限なしに、だよ。 信じられる? 誰でも、つまり優秀じゃない人でも情報発信できたなんてね……良いか悪いかはさておき、凄いと思う。 今はさ、私たちが作ったホームページにしてもそうだけど、学内限定のサイトにアップしてるだけなわけ。 ぶっちゃけた話、身内で見せっこしてるだけじゃん。 学園の関係者以外には公開できないんだもん。 そうでしょ?」
「なるほど……」
「誰もが情報発信の立場に立てて、全員同じ土俵に立てるっていうのは、今とは違う。 その違いって想像よりずっと大きいと思うな、私は。 違う?」
「確かに……そう思います」
水を向けられ、神妙に22番さんが頷きます。
私も併せてコクコク頷いてみるものの、いまいち腑に落ちません。 要は色んな情報が落ちている大きなネットにアクセスして、その内容からホームページを作る。 それから学園のサーバーでホームページを作ればいいんですよね。 そこに何の問題があるんでしょう? 私たちがHPを作ったとして、それを学園の外に見せたい、或は見せなくちゃいけないということでしょうか? 少なくとも私個人は、自分が先ほど見せて貰った系統のホームページを作ったとして、外部に発信したいとはこれっぽっちも思わないんですけど……。
「旧世紀の情報が双方向としたら、今は一方通行だよね。 ま、そこはしょうがないから諦めるとして、とにかく旧世紀のネットで集めた資料が元ネタになります。 こんな感じで質問の答えになってるかしら?」
「はい。 よく分かりました」
「じゃ、まだ少し時間あるけど、今日はこの辺でお開きに――」
席を立とうとする【B29番】先輩を22番さんが遮りました。