First Love-1
【First Love】
※このお話は電子書籍「首輪と鎖につながれて」の主人公の大学生時代のお話ですが「首輪と鎖につながれて」をご覧になっていなくても、こちらのお話を問題なくご覧いただけます。楽しんでいただけると嬉しいです!(^^)!
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今日はこれから、初めて彼の一人暮らしのお部屋に遊びに行きます。
彼の名前は晴也(ハルヤ)、目鼻立ちのハッキリとした、大きな厚めの唇が印象的な男の子。
柔道経験者らしいたくましい身体、明朗快活、そしてお話の上手なおもしろいひとです。
時々わたしは、どうして彼がわたしのことを好きになってくれたのかわからなくなるときがあります。
わたしは彼とは正反対とも言えるような、どちらかと言えばあまり目立たない部類の人間です。それに、わたしには自分の中に忘れられない過去の傷あとが残っているのです──。
「いらっしゃい」
笑顔の彼がわたしを部屋へ招き入れてくれます。
その清潔感のある笑顔を、わたしはいつも好ましく感じ、そして大切にしたいと思いました。
彼はその笑顔にぴったりの、オフホワイトのシャツを着ていました。晩夏。まだ蒸し暑さの残る、昼下がり……。
「レポート、一応書けたんだけどさぁ、いまいち自信がなくて。見てもらうためにわざわざ来てもらってごめんね」
彼がアイスコーヒーのグラスを木製のコースターの上に置きながら言いました。
わたしは首を横に振りながら、気にしないでと言って、それからコーヒーをありがとうと続けました。
大学の夏休み中にあった、集中講義のレポート。彼はそういったものがとんと苦手なのでした。
晴也から受け取ったレポートに丁寧に目を通していき、気になる点をひとつずつ付箋紙に書いて貼っていきます。
彼はその様子をまじまじと見つめ、時折思い出したようにアイスコーヒーを飲んでいました。まるでネズミのおもちゃに見入る仔猫のよう。彼の目はくるりと光る猫のそれのようでした。
エアコンの効いた部屋はとても快適で、外の蒸し暑さを忘れるほどでした。
彼に見終わったレポートを返し、自分もアイスコーヒーを飲みました。するりと喉の奥へと流れて落ちていくアイスコーヒーは、酸味の少ないまろやかな味わいのものでした。
「ありがとう、助かったよ」
晴也がそう言ってレポート用紙を脇に置いたそのとき、窓を打つ雨の音が耳に入ってきました。
「あれ、雨だ。あんなに晴れていたのに」
振り返って窓を見ている彼の、むき出しの首筋にどきりしました。自分とはまったく異なる姿をしている彼の、太くたくましい首。
再び視線をこちらに戻した彼と目が合いました。少し三白眼気味の、力のあるふたえの目。
「詠歌(エイカ)──」
彼がわたしの名を呼び、それから視線を落として小さく息を吐いてからアイスコーヒーをグッと飲み干しました。カランと涼しげな音がします。わたしもつられるようにアイスコーヒーを飲み、ふぅっと細いため息のような声を洩らしました。