〜 情報その2 〜-2
「教官がチェックしてたのって、今から思えば『情報技術』もだけど、アイデアの独創性じゃないかなって気がするんだ。 一発でオッケーが出たヤツって、私も含めて明らかに他と違ってたもん。 変っていうか、ぶっ飛んでるっていうか……そういう意味じゃ、ににの『雌用衣装を展示するマネキン』っていうアイデアは、あんまり工夫してなかった。 そこらへんがやり直しの原因じゃないの? 安直なのが嫌いなんだよ、教官は、きっと」
「うっさいです。 にっくみたいに意味わかんない変態じゃないんです、にには」
「あっかんべー。 変態で悪うございましたね。 その変態に総合成績で勝っちゃってるにに様は、どれだけ変態かって話だよ」
「つーん。 成績がいいのは才能の差です。 頭がいいのと変態なのは無関係です」
なんてしゃべりながら、次々とスライドショーを見せてくれました。 【B2番】先輩は『膣、肛門を利用した風向風力計』という内容です。 建物の屋上にポールを設置し、そこに肛門を宛がって踏ん張り、風に負けない姿勢をとります。 その上で風が吹くとポールに肛門を貫かれたまま回転し、風がクリトリスに直撃するように体勢を変えるんです。 あとはクリトリスの感度でもって風速を測定し、空いた手でもって表現すれば完了ですね。 風速10メートル〜15メートルは両乳首をしごく、風速15メートル〜20メートルは右乳首を摘まんで回転させる、という風に事前に表現方法を決めておけば、電気系統のトラブルがあったとしても大丈夫です。 【B22番】先輩曰く『一番教官から評価が高かったのがコレ』だそうです。 評価する基準がどんなものかは知りませんが、膣でもって大風を計測するなんて、確かに聞いたことはありませんし、私には思いつけそうもありません。
あとは『生理の血』を使った用途が多かったです。 生体キャンパスに絵具代わりの月経で字を描いてみたり、水質の富栄養価の比較対象に経血を利用したり、森を散策する際に目印となる木に放尿の容量で月のモノを擦りつけさせて迷子になるリスクを軽減したり、枚挙に暇がありません。 学園では生理を題材にした授業が少ないために『これまでにない新しい何か』と言われたら、生理くらいしか思いつけないのかな、と思います。
余談ですが、現実の学園では私たちの生理周期は完全に管理されていて、必要に応じて始動する以外、普段は生理が来ないようにコントロールされています。 生理は子孫をつくる神聖な営みなため、子供をつくるに値する肉体をもっているか、子供をつくるに値する知能を備えている牝にしか許されません。 幼年学校では普通に毎月1度、憂鬱な時間を過ごしていました。 当時はイヤでイヤでしょうがなかったですが、無くされてしまうと無性に辛くて寂しいものです。 私たちって変なところで拘っちゃうんですよね。 我儘とはちょっと違う気がしますが……どうなんでしょう?
一通りスライドを見せて貰ったところで、今度はHP(ホームページ)の完成版を見せて貰いました。 学園内ネットにパソコンを繋ぐと、先輩方がつくったサイトがズラリと並びます。
スライドショーと違い、お題は毎年同じとのことでした。 時代、行為、集団、軽重は問いません。 何でもいいので、女性が社会の進歩に反した行為を列挙し、それらを裏付ける文献や画像、動画にリンクを貼ってHPの体裁を整えること。
『旧世紀において女性がかかわった歴史を纏めなさい』
『情報発信』は『情報』の時間の根幹だといいます。 だから、課題として『HPをつくれ』というのは分かります。 けれど、この悪意あるテーマを前にすると――学園の陰湿さに想いを馳せずにはいられません。 入園当初であれば『女性が活躍した歴史』を探したかもしれませんが、すでに入学して1学期が過ぎようとする現在の私には学園の意図が分かります。 過去にあったごく普通のこと、全く問題がないこと、至極当然のことを捻じ曲げる。 そうしてあたかも、女性の存在自体が悪であるかのように表現しろ……ということなんでしょう。 もっとも、もう溜息をつきたい気分のレベルなんて、とっくの昔に通り越しています。 今更これくらいでめげたりはしません。
「にっくって何を調べたんでしたっけ? 忘れちゃいました」
「ファッションだよ。 ドレスコードとか、コーディネートとか」
「ああ、アレですか……ぼんやりとしか覚えてないです」
「吾ながら地味だったもんねぇ。 むしろ、ににが覚えてた方がびっくりする」
「せっかくなんで、ここで開いてみましょうか。 ポチッとな、です」