佐藤クンの親友-1
「ボク、あの人嫌いなんですけど」
佐藤は目の前の人間を指さしそう言った。
「言うな、思ったとしても本人の前で言うな」
目の前の人間は短気だったようで、怒気をまき散らしボク達に歩み寄ってくる。
「はぁ…」
こぼれるため息。
何しろ佐藤と一緒にいるときには人間相手のもめ事は必ず起こる。
十六年間。幼なじみのボクは流石に慣れてくるが、未だに対処法は分からない。
努力はするが…。
「やぁ田中クン。落ち着いて、今回はこいつがガキだったってことで見逃してくれないかな」
きっと佐藤のせいだろう、ボクは人に対して非常に腰が低くなった。
「まぁ、中村がそう言うなら」
田中が許すようなことを言う。
「ふん、ボクが子供?どっちがですか。ただボクはあの人嫌いと言っただけであって誰もあなただとは言ってませんよ」
これがいつものパターン。
こうなれば自分の被害を減らすだけ。
「てめぇは俺に指さしてたんちゃうんけ!?」
まだ冷静に言葉で返してくれているうちに自分のことをターゲットからそらす。
「もう全部佐藤が悪いです、精一杯ボクも言うなと止めたんですけど」
止める暇なんて無いほど突拍子だったけど一応言っとく。
「そもそもどうなんですか、あなたはボクにそんなにも嫌われたくないと?ご冗談を」
小馬鹿にした口の聞き方、田中も流石にキレるだろうか。
「お、お、お、おお前バカにしてんのか!?」
「別にしてませんよ。それとそんなに『お』を強調したいんですか?」
ボクはそっと立ち去ろうとする。
「お、お、お、お、おい、こいつ殴ってもいいか?中村」
前兆なんて全くないボクへのフリに一瞬反応が遅れる。
「どう――――」
「あなたバカですか?中村クンに許可をとれば人を殴れるんですか?もしそう思ってるんならちょっとだけでいいですから現実世界の基本を学んでください」
どんどん赤くなってくる田中の顔がこっちを向く。
そして言う。
「お前等どっちも殺したるわ」
本気なんだろうか、ポケットをガサゴソしている田中を見て、ボクはただ肩の力を抜いてぐったりするしかなかった。
「本当にバカですね、その行動パターンは単細胞動物以下ですか?何かを取り出すフリをすれば怖がるとでも?何を考えてそんなところに行き着くのか。頭の中の回路ずれてるんじゃないですか?」
「た、田中クン落ち着いて…」
こんなにも努力するボク。
人間は慣れる動物らしいけどこれだけは慣れないし、耐えられない。
もう逃げるしかない。
思うが早いかボクは猛ダッシュする。
「はっ…お前の仲間はお前を見捨てたようやな……」
危ない雰囲気をまんべんなく濃密に周囲に拡散させて佐藤を睨む田中。
「待ってくださいよ、また一緒にこのバカをどうするか考えましょうよ。確か前回は救いようがないで終わりましたよね?」
正真正銘大ぼらを吹いてボクを追いかけてくる佐藤。
それを聞いて身の毛もよだつ顔でボクと阿呆を追いかける田中。
「中村クン、あのバカが冷静に話し合おうと言ってますよ」
追いついてきた阿呆がまた見え透いているにも程がある嘘をつく。
「じゃあ、お前が交渉にいけよ」
そんな会話の間も全くスピードを落とさず全力で走る。
「ボクのことは気に入らないらしいですヨッ」
最後の『ヨッ』で見事にボクに足をかける。
そしてボクは見事に転ぶ。
「ぶへっ!!」
「もらったわー」
うつ伏せに転んだボクの後頭部に衝撃が走る。