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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-7



だが、今度は、和音が沈黙を破った。

「・・私の家は、ほかの家庭と違う。それが、家の中に居るとよく分かる。」
「・・・」

奏多が、自分に目を向けたのが分かった。
だが、和音は前へとまっすぐ顔を向けて、話し始めた。

「私の家族は、両親と姉、そして預かってる波音の4人。父親は、海外で単身赴任。家に、家族に、まったく興味がなくて、仕事ばかりの人。」
「・・・」
「母親は、普段は母親してるけど、父親から電話が無い日は“女”に戻って、どっかの男性と一緒にいる。昨日も今日も、それで居ない。いつものことだけどね。」
「・・それって」
「そう、まぁ、一般的に言う、不倫。3年前か、父親が赴任先で浮気したことが私たちにバレてから、母親もするようになった。あとは単純に放って置かれて寂しいんでしょ」
「・・」
「姉は、昔からずっとあんな感じで、特に私に敵意むき出し。」
「そういえば・・俺のこと知ってたけど」

姉が部屋に戻る間際、自分の名前を呼んだ。
奏多はどうして自分の名前を知っているのか気になってはいたが、聞こうにも聞きづらい状況だったので抑えていた。
そんな奏多の様子が分かったようで、和音は奏多の顔をちらっと見上げてから、「あぁ・・」と言ってまた視線を前に戻した。

「多分、奏多のこと、覚えてたんでしょ。姉も昔、鼓笛隊でホルンやってたから。」
「なるほど、な・・」

遠いような目をして、答える和音。
そんな和音を、奏多は心配そうに見つめる。
それからは、何も言葉が続かず、会話にならないまま、駅前まで来てしまった。

「ここが、駅?」
「そう」

姉の話が出てからというもの、和音は何も言葉が出て来なくて黙って歩いていた。
奏多も何も話そうとしないので、幸いなことに家族の話をせずに済んだ。

家族の話をしないことに安心するくらいなら、元々話さなければいいのに。

少し考えてから、そう自嘲した。
誰よりも家族の話をしたくないくせに、まるで誰かに今まで聞いて欲しかったかのように話をしてしまった。
自分の中の矛盾に、頭がおかしくなりそうだった。

「和音?」
「!」

奏多から呼び掛けられ、和音はハッとした。
呼ばれた方を見ると、奏多が心配そうに和音を見ていた。
変な顔をさせた、と和音は少し後悔した。

「なに?」
「いや、なに?じゃなくて、大丈夫か?」
「・・平気。」

上着のポケットに手を入れ、奏多から目を逸らす。
和音はこれ以上、泣き言を言いたくなかったので、前回と同じように奏多をかわすことにする。
奏多の傍に居ると、どうも、泣き言を言えるようになってしまう。
それだけは、和音は良いと思えなかった。

「じゃあ、もういいよね?私、帰るわ。」
「あ、ちょ、まった」

改札口前まで来て、踵を返そうとしたとき、和音の腕が掴まれた。
いつかの時のような出来事に、和音は一瞬驚いたが、すぐに冷静になってため息をついた。
奏多へとゆっくりと振り向いた。

「・・なに?」
「あのさ」

呆れた顔で、奏多へと問いかける和音。
少し言いにくそうにしながらも、和音の顔をしっかりと見ながら、奏多は口を開く。

「和音の家族がどうとか、別に俺は気にしないから。」
「・・は?」

思わず、怪訝な顔になって聞き返した。
そのことに気づいていながらも、奏多は気にせず続ける。

「俺は、和音にホルンを教えてもらって、一緒に舞台に立つだけだから。和音が居ればいいんだよ」
「・・・!」
「それだけ。じゃ、また練習でな」

そこまで言って、奏多は和音の腕をそっと離した。
そのまま、駅の改札の中へ入っていった。
残された和音は、ただじっと奏多の後ろ姿を見つめていた。

「・・・バカじゃないの」

そう呟いた和音だったが、言葉とは裏腹に、気持ちが安らいだのを感じた。
小さく微笑みを零して、和音は今度こそ踵を返して帰路を歩き始めた。




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