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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-5


唇を噛み締め、携帯電話をまたソファーへ放り投げると、今の出来事を忘れるために再びキッチンに立った。蛇口をひねって、水を出して洗い物を始めた。
すると、玄関のチャイムが鳴った。
和音は顔を上げ、壁に掛けてある時計を見た。
現時刻、夜の7時。
こんな時間に尋ねるのは居ないはずだ。表情をキツくした和音は、水を止めた。
インターホンで誰かを確認しようとしたとき、ドアが開いた音がした。
誰がドアを開けたのか、考えた和音は慌ててリビングを出る。
今この家には自分と波音しか居ない。ドアを開けたのは間違いなく波音だ。
もし、変質者や不審者だったら。
そう思って、慌てて玄関へ向かう。

しかし、その心配と不安は玄関に向かう途中で無くなった。
楽しそうに話す波音の声と、聞き覚えのある声。
玄関に着いた和音の目の前に、波音に手を握られ、楽しそうに話しかけられていた奏多の姿があった。

「・・・・何で」
「よお。メール、見てねえの?」
「・・見てない。何で、奏多が家に」
「優羽さんに頼まれたから、練習の日程表届けに来た」
「・・・は?なにそれ。優羽さんから聞いてない」
「だから夕方メールしたんだけど、見てねえのって聞いたじゃん」
「見てないって言ってるでしょ。だとしても、だから何で奏多が」

確かに、優羽から昼間来たメールで、今日練習の日程表を届けに来ると言っていたことを思い出した。しかし、いつも優羽が来ていたし、奏多に届けさせるなんて聞いていない。
疑問符をつけず、聞き出す和音を他所に、波音はどこか嬉しそうにしている。

「和音姉のお友だち!?お友だちさん!?」
「波音、違うから、手を離し・・」

興奮気味の波音に気づき、和音はため息をついて手を離すように言う。
しかし、その言葉の途中で奏多がしゃがんで波音と目線を合わせたことで、最後まで言えなかった。

「そ。和音姉ちゃんのおトモダチ。届けもん、届けに来たの」
「ホント!?じゃあじゃあ、上がって!!和音姉のお友だちさんとお話したい!!」
「いいの?じゃあ、おじゃましまーす」
「は!?ちょ、波音、何言ってんの、奏多も何上がってんの!?」

変わらず、手を離さずにリビングへと引っ張る波音と、波音に勧められるまま靴を脱いで家に上がって波音についていく奏多を、和音は必死に止めようとする。
が、波音の勢いを止められず、結局、リビングへと通してしまった。
ここまで来たら、もはや諦めるしかない。
仕方なく奏多用の紅茶と波音用のホットミルクを出して、放っておくことにした。


静かになった。
そう思って、リビングを見ると、波音が寝息を立てていた。隣に座って話を聞いていた奏多に寄りかかって眠っている。やることが一段落した和音はリビングへ行って、すでに飲み干していた波音のマグカップをキッチンの流しへ置くと、再びソファーへ戻った。

「・・寝たみたいだね」
「あぁ、10分くらい前から。運ぶか?」
「・・・・仕方ないか。お願い」
「おう。」

寄りかかった体制を少し動かして、波音を抱き上げた奏多を見て、「意外と力あるんだ」と本音をこぼす。「一応、男だし」と拗ねた声で答え、「どこに行けばいい?」と聞く。
拗ねたことに少し笑って、和音は奏多の前に立って歩き始める。奏多も、それについていく。
そうして、静かに2階の波音の部屋に入ると、奏多が部屋の主をベッドへ横たわらせた。
和音がそっと、布団をかけてやる。
ちゃんと寝入ったことを確認した2人は静かに部屋を出て、再びリビングへ戻った。
喉が渇いたであろう奏多のためと、自分のためにココアを入れる。
出来上がったココアを奏多に渡して、自分も少し飲む。
ソファーがひとつしかないため、距離は空いているが、隣に座る。
何も喋ろうとしない和音に代わって、奏多が口を開く。

「波音ちゃん、だっけ。随分元気じゃん、熱下がったの?」
「・・まぁ、なんとか。夕ご飯食べる前はあれでも熱あったから」
「ふーん。従姉妹、だっけ」
「・・そう。家に居候してる。」
「何で?」
「・・叔母が海外で仕事中」
「へえ・・。」

もう波音と関わりを持たれてしまったからか、和音は淡々と答える。
淡々と答えることに何も言わず、会話する奏多は先ほどの波音との会話の内容を思い返していた。

「波音ちゃん、喜んでたな」
「・・学校、あんまり行けてなくて他の人と会えるなんて無いからね」
「それだけじゃねえと思うけど」
「え?」
「・・お前の友だちが家に来るなんて初めてだからだろ」
「・・・!」

嬉しそうに、奏多へ語られたのは全て和音のことだった。
いかに自分の面倒を見てくれているか、いかに料理が美味しいか、いかに勉強ができるか。いかに、優しいか。

波音が何を奏多に話していたのか、奏多の言葉から察した和音は恥ずかしくなった。
照れているのを誤魔化すために、慌ててココアを飲み干して立ち上がる。

「て、ていうか、いつまで家にいるつもり!?日程表、早く渡してくれない?!」
「へーへー。ったく、素直に喜んどきゃいいのに」
「っうるさい!!」




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