下弦の月は、深夜0時にのぼりはじめる-1
僕はノリヨシ。中2だ。今夜は夏のお祭りでひとり公園にやって来た。
「あ、ノリヨシくんやん。」「えーっ、ノリヨシくん来とったん?」
次々と同じ学校の女の子たちが声をかけてくる。みんな可愛いユカタを着て、夜店の灯りに照らされてお祭りのふんいきを盛り上げている。
あんまり人が多いからちょっと疲れてしまった。僕は夜店のハズレの少し静かなところへ行った。
「あ、カズミや……」
同級生のカズミが、かき氷を入れた紙コップを手に、オブジェの台座にもたれている。カズミは小さいころから近くに住んでる仲良しだ。もっとも、カズミは短い髪のボーイッシュな子で、女の子のそばにいる感じがしない。今夜もTシャツに短パンという「男らしい」姿だ。
「カズミさん…」と声をかけると、カズミは笑顔を見せた。でも、何か疲れてる感じだ。
僕は隣にもたれて、カズミの服を見た。
「なんか、ミサコとかサヤカとか、学校のコはみんなユカタ着とったけど、カズミはそうでもないんやな。」
カズミは軽く笑いながら首をふった。
「私まで、ユカタ着られへんわ…」
「私まで?」
カズミは僕の顔にかき氷のコップを当てて言った。