Runa:「虚心坦壊(懐)」-3
「いつも見せてくれるのに、どうして見せてくれないの?」
長い口づけをして、絡ませた私と勇樹の唾液の糸が切れたタイミングで勇樹は私にそれを尋ねる。
どうして?
意味など考えていなかったから、私は思わず考え込んでしまう。
強いて理由を挙げるのであれば…。
私が勇樹が喜ぶと意識して衣服を脱いだことがほとんどなかったからなのかもしれない。
別に服を脱がされて、そのまま勇樹の成すがままにされていることに羞恥心が皆無だったわけではない。
勇樹が脱がせたくて脱がせている。
その事実に私は甘んじていただけで、そこに自分の意思の有無を考えたことがなかったからなのかもしれない。
「なんだか…、初めて勇樹に体を見られているような気がして。」
勇樹にされてきたことは、全部私の体が経験したのは紛れもない事実。
でも、勇樹に見られたい、見られてもいいという意思が介在している今、過去で一番恥ずかしい。
ブラジャーに締め付けられていた私のだらしない胸と、爆発しそうなくらいゆっくりと確実に膨張と収縮を繰り返す私の心臓の鼓動。
いつもなら、気にならないこと。
でも神経が研ぎ澄まされたみたいに、勇樹の視線を体中で感じているし、私の体は燃えるように火照りを感じている。
ジリジリと、体から愛液や色んなものが噴き出ていくようなそんな感覚。
自分の体の異変に自分で興奮してしまっていた。
「じゃあ、見せられるようになるまで、ゆっくりしよ。」
勇樹はそう言って私に微笑んだ。
まるで私の心を見透かしたかのように、勇樹は冷静だった。
いつもなら、強引にしてきたりするかもしれないのに、どうしてこういう時だけ私を理解してしまうのだろう。
私が勇樹に自分の意思で体を捧げるのは時間の問題で、逃げ場がなくなってしまったのと一緒だった。
「ありがとう…。」
私に今更なんとしてでも、勇樹に体を見られたくないという抵抗感はない。
ただ、踏み出せないだけ。自分の意思で体を許してしまったら、どんなふうになるのか怖くて言い出せないだけ。
きっと、時間の問題なんだろうな…。
心の準備はできていなくても、勇樹に体を見られるのは本当は全然嫌じゃないのだから。
私はそのまま胸を隠したまま、勇樹の体に密着する。
「瑠奈ちゃん、温かいなぁ。熱あるみたい。」
勇樹が言葉を発する時、喉仏が動くのが体に伝わってくる。
私の興奮はピークに来ているのか、その些細な動きだけでも敏感に肌が感じ取ってしまう。
「そうかもね、誰かさんのせい。」
「なんか、今日の瑠奈ちゃんはエロすぎてやばいなぁ。」
お互い目が合って、ふふっと笑みがこぼれる。
勇樹の指先が、私の露出した肩に触れる。
「はぁっ…」
体に指紋をべっとりとつけられているような気分に、思わず喘いでしまう。
勇樹の指先は、私の胸だけを触らないように、肩から腕へ、腕を撫でるようになぞっていく。
全身の至る所に私の濡れやすい入口がついているように、勇樹の指先の感覚が脳に確実に送られてくる。
「はぁっ…はっ…んっ…」
勇樹のなぞる手は、私の骨盤の形までも想起させるように正確に指を沿わせている。
「息が上がってきたね。」
勇樹は、腰と太ももの辺りで指先を何度も筆のように撫でてくる。
くすぐったいのと、気持ち良さが入り混じって、私は太ももを擦り合わせてしまう。
「勇樹の指がぁっ…くすぐったいのよ…」
「ふぅん…。なんか…いつもと様子が違うよね〜。」
勇樹は私の体をつま先から頭まで、絡みつくような視線を向けている。
「触るだけで、こんなに息上がっちゃってるしさ」
そう言って、勇樹は耳元に顔を近づける。
勇樹のわずかな息遣いですら、耳が感じ取ってしまって体が疼く。
「舐めたら、いっちゃうんじゃない?」
勇樹の言葉に戦慄して、全身鳥肌が立つ。
恐怖と、女の悦びという矛盾が生じて
「だめっ!今は本当にやめて!」
と、私は訳が分からなくなって拒絶してしまう。
「へぇ〜、じゃあやっちゃお。だって、おっぱい見るの待ってるんだから、それ以外は何したっていいでしょ?」
「やだやだやだ!本当にやめて、お願い。」
あぁ、舐めて欲しいけど、舐めて欲しくない…。
怖い。自分が自分じゃなくなりそうで。
勇樹は私に見せびらかすように、「べっ」と長い舌を出す。
「いや…。本当にやめてってば…。」
勇樹の長い舌を見ただけで、冷や汗が出る。
体は熱く火照っているのに、背中に氷の塊を押し付けられたような気分。
「ぶっ壊しちゃおうっと、瑠奈のこと。」
「やめて、だめだめ、絶対だめだから…!」
背中に勇樹の指が強く食い込んで、体が勇樹の方へと引き寄せられる。
首に勇樹の舌の温かさと、粘液を浴びせられて、私は…。