小さな嘘と繋がる愛情-2
ただ、この二百円が、どうしてここにあるのかが分かったのだ。
表情には出さずに、僕はそれを凝視した。
「お母さんがあげたのは、二百円。それを、あなたは、そのまま、おばあちゃんにあげたのよ」
今にも消え入りそうな声で、母は言った。
「今で言うお餞別よね。おばあちゃん、それが宝物だって……」
「……」
「ずっと……ずぅぅっと、持っていたのよ」
後半はほとんど涙が絡まっていて、声じゃなかった。
それでも、僕は黙っていた。それしか出来なかった。
自分部屋の壁に座ったままよりかかり、年老いた箱を見つめる。
これがここにあることが、祖母はもう帰らないと言うことを教えていた。
もうないのだ、と心の中で呟く。夜中に鳴る電話も、切るときの「じゃあね」という声も。
届け物をすると、橋の上で待つあの姿も、昼飯にパンを買ってくれることも、強引に頭を撫でられることも、金輪際、ない。
永遠に、ないのだ。
僕は唇を一文字に結んだまま、祖母の遺品を見つめた。
全身が震えた。「涙なんて枯れ果てた」そんな台詞、嘘じゃないかと思った。
やがて、僕の視界は何も映さなくなった。水の中に、ゆっくりと、落ちていくようだった。