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「あんなにいい子が何故、どういう理由があって殺されなくちゃいけないの?人に憎まれることも、きっとなかったでしょう。どうしてあんな殺され方をして・・・。
だからあの子の死を知ってから、とっさに思いついたのが入れ替わることだった。幸い私たちは見た目は同じで、あの日も服装は同じだった。持ち物は抜き取られいたらしいから、彼女が美里である証拠はなくなっていた」
「何故、入れ替わる必要があったんだい」
一瞬、裡里が言葉に詰まり、ため息を吐き出すように、
「分からないの?」
と言った。
「私が死ぬ分には、きっと誰も困らない。だけど妹の美里が死んでしまったら、あの子の友達も、それに私たちの両親だって深く悲しむに決まっているわ。だから私は、美里がこの世を去った瞬間から彼女の人生を引き継ごうと思ったのよ」
「本当に、そう思っているのかい」
「・・・」
「君が死んでも、誰も悲しまないと?」
「君が死んだと分かった時、君のご両親はどんな面持ちだった?」
「・・・」
最後まで、裡里が僕に背中を向けたままだった理由がその時になってようやく理解出来た。僕はコートのポケットへ両手を突っ込むと壇上から静かに降り、立ち止まった。
「美里ちゃんの人生は彼女のものだ。君の人生は、志摩裡里として生きて行くしかないんだ」
かすかに、はなをすする音が耳に入った。
廊下へ出て後ろ手にドアを閉めようとすると、教場の隅の方から、すすり泣く裡里の声がかすかに聞こえた。