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【ホラー その他小説】

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「ここで、お姉ちゃんが死んでいたのね」
ベージュのコートに身を包んだ美里は、姉の死体が立てられていた砂場を睨むようにしながら憎々しげに呟く。
「そうだよ」
僕は煙草をくわえながら、答えた。
「そんなことよりも、美里ちゃん。裡里は家ではどうだった?誰かにねらわれているような様子はなかったのかい」
ないわ。美里は首を振る。
「お姉ちゃんはいつも寝ていたから」
「・・・そう」
外に変わったことはなかったか。自宅に遅く帰ってきた日はどんな感じだったか、郵便物で何か届けられたか、家族に不審な点はなかったか、とにかくなんでもいいから教えてほしいと頼んだのだけれど、収穫はなかった。 長い時間を外で過ごしたため、僕らの体はすっかり冷えきってしまい、とりあえず近くのコンビニへ行くことにした。僕らの関係で共通点といえば裡里しかなく、なので移動の最中も裡里の話ばかりだった。だけどそれは、傷口にカラシやワサビや香辛料を塗りたくるような、さらに痛みを広げる愚かな行為でしかなかった。コンビニのドアを押し開く頃には、僕らはすっかり憂鬱になってしまっていた。
僕は晩に食べる弁当とホットコーヒー二本とジンジャエールが五本入ったカゴを左手に持ちながらレジに並んだ。僕の前に立つ美里は喉飴をカウンターに出しコートから、財布を取り出している。左手に持たれた草色の財布をやけに使いにくそうにしながら小銭をつまむ指先が肩越しから見えた。
「・・・」
お先に、と笑顔で美里が外へ出た。
会計を済ませて彼女の後を追うと、美里は気の抜けた横顔で力無く立っていた。
きっと軽く押しただけで、あの背中は簡単に倒れてしまうだろう。あの晩、裡里が殺された日にあった美里の明るさは、もう影すら無い。
恋人を失った男と、姉を無くした妹。第三者から見れば、そんな感じで、間違いなく同情の的となりそうな構図が出来上がる。
だけど僕の胸の内には、小さな疑問符が浮かび出していた。それは普段なら、別に気にするようなことのない、ささいなことが原因だった。
僕は、僕が店から出ていることに気が付かないでいる彼女に向かって声をかけると同時に、二本買った内の缶コーヒーの一本を放った。群青色の缶は、低い放物線を描くようにして美里へ届いた。慌てて腕を伸ばしてそれをキャッチした彼女の右腕、コートが下がって現れた細い手首には、真新しい白い包帯が巻かれていた。

普段は気にならない時計の針の音が、やけに耳につく。一時間前からベッドに入っているというのに眠くならない。むしろ、闇の静けさも手伝って、鮮明になった思考回路が僕の意識から離れたところでシャカシャカと働いていた。
毛布と掛け布団の中で、何度も寝返りを打ちながら、枕元から同じ目線にあるコンポを見つめた。
頭の中で、裡里を思い出していた。彼女について知っている限りのことを、想像上の棚に並べて、その下に美里の情報を並べた。
何度考えても、同じ答えにしか行き着かない。だけとそれは、あまりに大胆な予想であり、もしも本当にありえることならば、この事件の結末は誰も予想していない場所へ落ち着くことは間違いなかった。
覚悟を決めて、枕元に置いてある携帯電話を手に取る。電源を入れると辺りがぼうっと明るくなり、僕は目を細めた。


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