夢の中で逢った、ような……-1
「もういい、もういいんだよ、・・・ちゃん」
長い黒髪の少女の手を取り、姉は何かを労っている様子である。
そして立ち上がると、決意に満ちた表情で前方に在る物体を見据える。
その足元には、白い猫の様な小動物も見える。
「まどか、まさか!?」
長い黒髪の少女の表情が曇る。
「・・・ちゃん、ごめんね。わたし・・・少女になるっ」
振り返った姉は、その決意を黒髪の少女に伝える。
「まどか…… 」
「…… 」
もう姉とその友人と思しき少女の会話は全く聞こえない。
(ねえさんっ、まどか姉さんっ)
必死に声を出そうと思っても、発する事は出来ない。
「タツヤっ タツヤっ」
「!?」
その時、父の声が僕を呼び起こす。
何時もの日常が始まる。
「行ってきます」
まだ今朝見た夢から覚めきってない感覚のまま、朝食もそこそこに学校へ向かう。
ある日突然、大好きな姉が忽然と消えた。
少なくとも僕自身には、そう思えた。
しかし成長に伴い僕には始めから姉など居なかったと、繰り返し両親から聞かされた。
それでも僕は幼い時より、同じ夢を見続けている。
それはとても非現実的な光景でありながら、生々しい程に現実的な夢と言えた。
僕はもう11年間も同じ夢を見続け、初めから存在しないはずの姉に対する喪失感に苛まれている。
「おはよう、タツヤ」
クラスメイトの中沢が声を掛けてくる。
「ああ、おはよう、中沢」
「その顔は…… タツヤ? また例の見えないお姉さまか?」
茶化すように、中沢は小声で脇腹を突いてくる。
「良いだろ別に、僕が何を考えようと」
あえて否定しようとも思わなかった。
中沢とは幼稚園からの付き合いで、今更何かを包み隠すような間柄でも無い。
「いやいや、そうはいかないね。お前自分のスペックを理解してる? 鹿目タツヤ…… 眉目秀麗、知勇兼備、上級生を含め校内の全女生徒が一度はお前に注目する。そう、見えないお姉さまの事を知るまでは…… 」
中沢は嬉々として囃し立てる。
「知勇兼備って、なんともピンと来ない褒め言葉だね?」
僕はあえて眉目秀麗の部分には触れず、中沢の言葉をいつも通りにいなす。
「ぷっ、ぷぷっ、まぁ、そう言うなよ。正直妬ましいくらいだぜ! もっともそれだけのスペックを備えながら、女友達の一人も持とうとしない。それだけにタツヤに対する野郎共の支持も高い。俺にとっても自慢の友人だぜ」