百均がアタシを変えていった-1
ガランとしていた再開発ビルに、大きな百均が入った。
アタシは学校から帰ってランドセルをおろすと、小銭入れ一つ持って走っていった。
毎度すみからすみまで、店の中を見てまわる。あれも百円、それも百円、こんなものまで百円。(税別だけど)
でも、たまに知ってるコに出会うとアタシは身体が固くなった。
カゴいっぱいに、コスメとかアクセサリーとかをつめこんでる。
「きょう、先生に叱られてストレスたまったからヤケ買いしてやったの。」
みんな百均では山ほどモノを買うんだ。そんな理由でお金を使ったりできるんだ。ウチが貧しいアタシはとてもそんな真似できない。せいぜい二つくらい……たいていは手ぶらで店を出てしまう。
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その日はアタシ、棚の前にしゃがんで、ノートを二冊買うかどうかで迷っていた。
「何か、いいのはありますかな。」
頭の上で声がした。横をチラッと見ると、オヤジくさいズボンが見えた。アタシは相手にせずに黙ってた。
するとオヤジは、こんな事を言った。
「ライターとか、コンドームとかはいらないの?」
ウチに帰ってきたアタシは、誰もいないのを確かめると、百均のレジ袋の中身を床にあけた。
あのあとアタシは顔も向けず、オヤジに答えてしまった。
「何それ……買ってくれたりするわけ?」
オヤジもアタシの顔を見ずに言った。
「いいよ。そのノートも買うから、このカゴに入れなさい。」
そしてアタシが店の外で待っていると、オヤジはさりげなく、この袋を渡して歩いていった。
「うわぁ……ナマナマしい。」
アタシが選んだノートのまわりに、オヤジが買ったライターとコンドームがいくつも散らばった。
別にアタシ、ライターもコンドームもいらない。
ただ、ライターもコンドームも、アタシ達には売ってくれない品物だ。アタシは、知ってるコがいくらお金を持ってても、手に入れられない品物が欲しかったんだ。
「あれ。何だろこれ……」
ライターとコンドームの中にまじってたのは、百均のお店で見かけるちいさな小銭入れだった。
重たい。ジッパーを開いてみると、きらきら光る百円玉がつめてあった。
「1、2、3……20枚もある。何これ、アタシが使っていいって事かな。」