ライムキャンディ-1
ありそうで、なさそうじゃない?
あたしがそう云うと、先生は笑った。
笑うと目が凄く細くなる。そこが好き。
「何が?」
「ライムキャンディ。レモンライムとかはあるけど、ライムだけってなくない?」
「そうかもな」
それだけ云って、先生はあたしの机の上にあるプリントに目を落とした。
「それより相川、僕は君に補習をちゃんとしてもらいたいんだけどね」
あたしが真面目にやらないのは、先生と長く一緒に居たいから。
ただそれだけ。
だから。
「あたしと付き合ってくれたら、補習真面目にやる」
ちょっと冗談、すごく本気。
「なんだ。それ」
呆れた顔で先生はそう云った。
「ライムの飴と同じだよ。ありそうでない、教師と生徒の恋愛」
「それは黙ってるから、みんなが解らないだけじゃない?」
そうかもね。でも違うの、聞きたい言葉は。
「答え教えて」
「いきなりオッケィって事も、そうはない事だろうね」
冷静に云う先生に、あたしは涙も零せない。
「そうだね」
先生はそう呟いたあたしの頭を、ぽんぽんと撫でてくれた。
「でも好きになったら、僕はオッケィするかもよ?」
笑って、先生は飴をくれた。
ありふれた、レモンの喉飴だ。
今はまだ、ありふれた結末。
だけど、次はどうなるか解んないよね?
あたしは、その飴を口に放り込んだ。