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From Maria
【ホラー その他小説】

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From Maria-7

土曜日。
僕は一教科も履修していないというのに、珍しく大学へ足を運んだ。門をくぐり、その足でキャンパスへ向かったが、人は平日ほどなく閑散としている。ベンチに腰掛ける際、左ひざのしびれるような痛みに僕は顔を歪めた。まったく。昨夜は悪夢のようだった。右の鎖骨は折れ、頭は四針縫い、口の中も切り傷でほとんどものを食べられない状態だ。
それでも今、こうして生きているというのはそれだけで、まさに奇跡だ、と僕は思う。 僕が意識を取り戻したのが今朝方。自分のいる場所が病院のベッドであることを理解するのにも、時間がかかった。どうやら近所の住人が、ただならぬ奇声や物音に、外へ出て倒れている僕を発見したらしい。僕がかつぎ込まれると同時に呼び出しのかかった両親には、こっぴどく叱られた。後で警察からも尋問されるだろう。しかし、犯人が老婆だと証言しても、僕の記憶が混乱しているものだと決めつけられるに違いないだろうから本当のことを言うつもりは、はなっからない。
両足を投げ出し、空を仰ぐ。
見事な秋晴れだ。そう思っていると、逆さまになった彼女の顔がぬっと現れた。
「やあ」
「その怪我、なに?」
「ああ、昨日の晩。化け物に襲われたんだ。君が、僕を尾行して立ち去ったすぐ後で」 裡里は黙って僕の隣へ腰掛ける。
「やっぱり気が付いていたのね」
「まあね」
笑おうとして、痛みで顔が歪む。
「誰かが後ろにいることに気が付いてね。僕をこんな目にあわせた人間かと思った。だから君にリダイヤルしようと思ったら、すぐ近くから君の携帯電話の着信音が聞こえた」 「なるほど」
前髪をかきあげて、彼女は微笑した。
「近頃、あなたはいろいろな人としきりにメールしていたでしょう。友達がね、あなたが浮気しているんじゃないかって言ったの。私も、そうかもしれないって思って」
昨日の夕方、階段のところで僕を見ていた女の子たちを思い出した。
「しかも一人で帰りたいなんて言い出すから、怪しく思って尾行してしまったの。ごめんなさい。謝るわ」
深く頭を下げる裡里に僕は、いいよ、と答えた。でも浮気はしていない。そう付け加えた。
「裡里。君に聞きたいんだけれど、君も見ただろ。僕を襲った犯人を」
顔を上げた彼女が、いぶかしげに眉を寄せる。
「いいえ。見ていない。あなたはずっと一人だったわ。少なくとも私が見ていた時は」
「・・・そう」
仕方ない。気を取り直して、僕は話題を変えることにした。
「携帯電話を変えようかと思うんだ。今から一緒にショップ行かないか?」
「いいわ。行く」
裡里が頷く。僕が立ち上がると、彼女が肩を貸そうとしてくれた。大丈夫だと断り歩きだす。と、ポケットの中の携帯電話がメールの着信を知らせた。確認すると、見覚えのある名前が表示されている。タイトルの部分には『お疲れ』とあった。僕はそれを開く事なく、そのまま削除した。


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