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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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不倫の果て-1

「離婚届を役所に取りに行く時は、意外と緊張したなあ」
 部下からの離婚の相談に、離婚経験者である豊川晃彦(トヨカワ アキヒコ)はそう答えた。
「あと、けっこう労力がいるな。離婚なんて一苦労どころじゃない十苦労ぐらいに感じたもんだよ」
 豊川が妻の望未(ノゾミ)と別れたのは、今から5年前のことである。原因はお互いの不倫。
「今になってみれば、別れなくても何とかなったんじゃないかなぁとも思うね」
「未練ですか?」
「未練とかそういう類のもんじゃないよ。娘のことがね・・・。子供がいるんだったら別れない方がいい。なんだかんだ言っても子供のことを考えると、なんとかキープするのが一番だよ」
 豊川は娘の事を思うと離婚したことに後悔していた。妻の望未のことはそんなに気にはしていないが、娘の菜緒(ナオ)には悪いことをしてしまったという罪悪感が拭えない。
 中学校入学前という多感な時期に、親の身勝手な振る舞いによって大きな環境の変化を強いることになってしまった。そのことだけは忘れるなよと後輩に忠告した。

「養育費とか払ってるんですか?」
「ああ、大した額じゃないけどな」
 営業の外回りの途中、片田舎の定食屋に寄った。食事の場でも話題は『夫婦関係』についてだった。
 離婚協議の際、養育費については話し合っていた。
 話し合いの中で、親権は望未が持つことに。これは、あっさりと決まった。豊川自身がサラリーマンであり、今後も転勤がつきまとうこと。主な事業所は、関東近郊に限られるが、仙台、名古屋、大阪にも営業所があり、遠隔地への転勤も可能性があるため、その都度菜緒に付き合わせるわけにはいかない。そんなことから、豊川の方からその旨を申し出た。
 それでも菜緒が付いてくると言うのであれば、覚悟を決めるつもりだったが、そういうことにはならなかった。
 養育費は、出す出さないで揉めたが、結論としては不要と言うことになった。
 それでは納得がいかない豊川が無理にでも収めてくれと言って、月々5万円を支払うことにした。最初は10万円の支払いを申し入れたが、話し合いの結果が5万円と言うことだ。この5万円と言う金額が多いか少ないかはよくわからないが、望未の言い分としては非は自分にもあり、「喧嘩両成敗」としたい。だから、養育費も必要ないということ。
 豊川としても、別れても娘であることは変わりない。自分の子供を育てるのに、別れる、別れないは関係ないはず。そういった思いから、養育費は出すのが当然だと言う考えを最後まで変えることはしなかった。
 結局、互いの妥協点として月5万円の養育費を支払うことに落ち着いた。
「奥さんの生活とか心配にならなかったんですか」
 妻の生活=娘の生活になることから、そういった意味では心配ではあった。あくまでも娘がだ。
 妻自身は、当時もパートのピアノ講師をしており、フルで働けばそれなりの収入を得られるだろうと見積もっていた。当然、今までより生活の質は落ちることは否めないが、どうにもならないような生活にはならないだろう。
 菜緒には色々な意味で不自由な思いをさせたくない。別れ話の際に、そこに気付いていれば、もしかしたら離婚にまで至らなかったかもれない。菜緒のことが頭にあったものの、互いの感情がそのことに気付かせるのを遅らせた。
 気付いた時には後悔の念だけで、その種の心配事は尽きない。
「そもそも他人同士が一緒に生活するわけだから、何から何まで上手くいくなんてことは無いんだよ。どこか我慢することを求められるのは当たり前。そこをどう上手くコントロールしていくか・・・」
「自分でもここまで冷めるとは思わなかったんですよ」
 部下の結婚は、学生時代から7年以上の恋愛期間を経た上でのもの。互いのことは全てわかっている・・・つもりで結婚した。
 しかし、いざ同じ屋根の下で生活をしてみると、恋愛当時には感じることの出来なかったことがいくつも浮かんできた。
 こんなはずじゃなかった・・・ひとつのことで気になると、あとは雪崩のように今まで気にならなかったものでさえしっくりこないことが増えてくる。
「よく結婚は我慢とか忍耐とか言うだろ。まさにその通りだと痛感したよ。それと・・・信頼かな」
 部下の相談ごとであったが、自分の身に置き換えてみると、当て嵌まることがいくつもあった。
 浮気がばれた時、もしあの時、望未の浮気を飲み込んで、平謝りしていたらどうだったろうか。もしかすると、望未もそれを機に浮気を止めたかもしれない。
 たらればの話だが、一度だけでも我慢していたらば今の状況が変わっていたのかもと思ってはみたが、所詮後の祭りだ。
「別れるのは簡単だ。手続きは面倒だけどさ。経験者からアドバイスするんであれば、もう一度よく考えて、お互いで腹割って話をしてみることだ。そしてできるだけ、相手の良いところを見てみる努力をする。それでもダメなら別れればいい。早計な判断はイイことなんて一つもないぞ」
 部下へのアドバイスだったが、これは自分自身への反省でもあった。

 アパートに帰り、いつものように缶ビールを開け、テレビを点けた。
 特に何かを見ているのではない。静寂の中で一人いるのが嫌だったからだ。
 今日、部下と離婚の話をしたのもあったのだろう。何故か、ふと結婚生活を思い出した。当時は、何気ない会話や、娘の我儘などのありふれた日常が煩わしく感じたこともあったが、今となってはそんな家族間での会話が懐かしくも思えた。
 妻との離婚を引きずってはいないものの、やはり娘のことだけは時間が経っても気にならずにはいられない。
 そのことを元妻・望未はどう思っているのだろうか。
(俺のことは別にどうも思っていなくてもかまわないが、菜緒のことをどう思っているのだろう・・・)



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