義母と、違和感と、同級生と-1
変だな、と思った。
「やだ、貴洋ってば。母さんのことじろじろ見て……どうしたの?」
それは、大学二年の夏休み。
成瀬貴洋(なるせたかひろ)が、東京から故郷の実家へお盆の里帰りをした日の、夕食での
こと。
「ねえ、貴洋ってば」
「え? あ、い、いや、別に。何でもない」
「そう? じゃあどんどん食べてね。お代わりもあるから」
「あ、ああ」
いつの間にか手になじまなくなった自分専用の茶碗と箸で、懐かしい炊き加減の白いご飯を
ぱくつきながら、貴洋はなおもちらちらと一年ぶりに会う義母、亜矢を見やった。
美しく整った眉に、やや釣り気味で黒目がちな瞳。綺麗にバランスの取れた鼻や、ぷるんと
形のいい唇。
以前は長く結んでいた髪をいつの間にか肩で切り揃えていたことを除けば、全てが昔と何ら
変わらないように見える。
「……」
だがやはり、何かがおかしかった。
髪型とかそういう外見上の問題ではなく、久しぶりに見た義母は、明らかに以前と雰囲気が
変わったように思えた。
「それでね、お父さんのお墓参り、明後日にしようと思うんだけど……」
亜矢が、東京に行っても別段垢抜けることのない貴洋の凡庸な顔を、覗き込むようにじっと
見つめる。
「ああ、いいよ。そういうのはちゃんと行っとかないと。ちょうど三年だしね」
貴洋は、できるだけ声の調子を変えないように応じた。
「うん。それに……結婚して、十年」
「そっか……もうそんなになるんだ」
さりげなく付け足された亜矢の言葉に、貴洋は過去を思い返すように奥の仏間を見つめた。
「貴洋、この人は石井亜矢さん。今度お前のお母さんになる人だ」
連れ合いを亡くした父がほどなく再婚、二十七歳の亜矢がこの家にやって来たのは、貴洋が
九歳の時であった。